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 捜す、とはいったものの、しかし一体どこから捜せばいいのかわからなかった。
 カミサマのことも、あのお姉さんのことも、あの神社以外に関係がありそうな場所なんて皆目見当がつかない。

「とりあえず、町をぐるっと回ってみる? 私、まだこの辺りのことをよく知らないし、できれば刀坂くんに案内してほしいなぁ」

 鏡宮はおねだりするように、胸の前で手を合わせて言った。クラスの男子たちが見たら即刻鼻の下を伸ばしてしまいそうな微笑み。あの人気者の榊くんでさえ、彼女の笑顔には弱いのだ。

 そんな彼女のリクエストに応える形で、僕らは自分たちの住む町の外周を回ってみることにした。

 僕らの町は、はっきり言ってド田舎だった。
 のどかな田園風景が広がる土地、といえば聞こえはいいけれど、家の周りは畑と田んぼばかりで、高校生が楽しく過ごせそうな場所はほとんどない。地元の同級生たちは皆、休日になると電車に乗って遠くまで遊びにいく。

 ただ、自然豊かなこの風景は、人によっては心のオアシスになるかもしれない。
 道を歩けば至るところにタンポポやシロツメクサなんかが花を咲かせているし、公園の木を見上げれば藤の花が下がっていたりする。
 鏡宮はそれらを愛おしそうに眺め、小枝にとまったスズメやメジロに「可愛い!」と目を輝かせる。そうしている間にも、どこか遠くではウグイスが「ホーホケキョ」の練習をしている。

「中学の時は、隣の新興住宅地と学区が同じだったんだよ。僕らの住んでる辺りは、子どもの数が年々減ってるらしくて」

 限界集落、とまではいかないものの、その一歩手前ぐらいにあるのが現状だった。
 いずれ僕らも大人になったら、この町の外へ働きに出ていく可能性が高い。

「隣の新興住宅地……って、あの山の上に見えてる所だよね?」

 鏡宮はそう言って、東の方角に見える山へと目をやった。視線の先で、青々とした山の上にマンションらしき建物の屋根が見えている。

「うん。あの上に僕の通ってた中学もあるんだ」

「そっか。じゃあ、そっちの方にもまた行ってみたいなぁ。今日はもう日が暮れちゃうし、続きは明日にする?」

 彼女の言う通り、空はすっかり夕焼け色に染まっていた。
 結局その日はカミサマを見つけることもできず、あのお姉さんに関しても何の収穫もなかった。

 明日から世間はゴールデンウィークに入る。僕らの高校も例に漏れず、連休に突入する。
 もし明日もこうして彼女と会うとなると、それはいつもの放課後のルーティンではなく、休日に会う約束をするということになる。

「明日……って、鏡宮はゴールデンウィークの予定とかはないの? 友達と遊ぶ約束とか、家族で旅行とか」

「うん、明日は大丈夫! 刀坂くんも明日は空いてる?」

「まあ……」

 聞かれるまでもない。
 僕には友達がいないので、誰かと遊びに出掛けることなんて天地がひっくり返ってもない。
 それに両親は共働きで、家族でゆっくりすることはほとんどない。世間が連休に入っても忙しなく仕事へ向かうので、家族旅行なんていうのももうずいぶんと長いこと行っていない気がする。

「それじゃ、明日も一緒に冒険しようよ。刀坂くんの通ってた中学校も見てみたいし」

 ねっ、といつもの笑顔を向けてくる鏡宮。
 中学校なんて、僕にとっては何の思い入れもないのだけれど。それでも、彼女がこんなに楽しそうに話すのを見ていると、とりあえず案内してあげようかな、なんて思う。

「明日も楽しみにしてるね! ……って、なんだかこれ、デートの約束みたいだね?」

「でっ……」

 彼女がいきなりそんなことを言うものだから、僕は思わず言葉に詰まった。
 ふふ、とイタズラっぽく笑った彼女は確信犯だったのだろうか。

 なんだか彼女の手のひらの上で転がされている気がする。
 けれど、その感覚は不思議と嫌ではなかった。