ちょっとからかってやろう。そんな気持ちで言ってやると、いや、とすぐに否定された。
「夢で会うのが星村で良かったよ」
 それってどういう意味だろう。聞こうとすると、扉が開いた音がした。それから足音が近付いてきて隣のカーテンが開けられる。
「一声、大丈夫? 心配で来ちゃった」
「えーもうすぐ五限始まるだろ、さてはサボりに来たな?」
「バレた?」
 女の子の声と彼の笑い声が弾けたが途端に静まる。
「隣で寝てる人いるから」
「一声もでしょ」
 小声で、抑えきれない笑い声が聞こえてくる。私は目をつぶった。
 本当に不思議。カーテンの向こうからこそこそと聞こえてくる話し声。もう私にはしっかりとは聞こえない。
 こうしていると私たちはただの他人。接点もない、先輩と後輩にもならない関係。どうして私なのだろう。どうして彼なのだろう。お互い、夢で会うような存在はもっと他にいるはずなのに。
 初めて夢の中で彼と出会った時、それはそれは驚いた。意識もしっかりしているし、視界も良好。夢の中特有のぼんやりした感じがない。ただし空間はもわもわとしていて、声が響く、等ももちろんないが、就寝したのは確か。変な夢だが、まあこれは夢だからと、お互い自己紹介をしてみせた。
「星村歩咲です」
「も、望月……一声、です」
 外で見かけた彼とは違って、やけに気弱に見えた。戸惑っているのだろうが、それにしても覇気がない。きょろきょろと辺りを見渡し「どういうことだよ」と呟く彼に私は続けた。
「私は望月さんが通ってる高校の一年生です」
「あ、こ、後輩なんだ。俺は二年生……。君、怖くないの?」
「はあ、夢ですから」
 何を怖がることがあるのか。私が首を傾げると、察してか、彼が口を開いた。