胸に、針が突き刺さったようだった。彼の言葉が痛みを伴うが何故なのか分からないまま、私は起床した。
 花乃子と登校中、話題は夏休みのことで持ち切りだった。
「遊びに行かない?」
 私から誘ってみた。花乃子は幼なじみだから緊張も特になく、すんなりと言えた。彼女も簡単に、いいよー、と返してくれる。
「でもどこ行くの? こんなに暑いけど」
「花乃子暑いの苦手だもんね。じゃあ夏祭り一緒に行かない?」
「いつも通りだね……いいよ、行こう」
 地元の夏祭りは毎年花乃子と行く。家も近いし祭りからもそう遠くない距離で帰ろうと思えばすぐに帰れるからお互い都合がいいのだ。
 花乃子と別れた後も、教室では夏休みの話題が飛び交っていた。テスト明けで気持ちも開放的になっているのだろう。かく言う私もそうで、昼休憩時、学食で紬と夏休みの話になった。
「歩咲、良かったら家に泊まりに来ない?」
 親子丼を美味しそうに食べている姿を見ながら、今日もしっかり注文したおにぎりを頬張る。美味しい。中身は明太子だ。
 彼女とはあれ以来、何度か遊ぶようになった。カラオケへ行ったり、ショッピングをしに行ったり。やっぱり大袈裟なリアクションを取るが悪い人ではないと分かる。でも泊まりか、と渋ってしまう。
「夜通しゲームして、おしゃべりして、アイス食べ放題出来るくらい買ってくるし、お菓子も買ってくるよ」
「いやそれは……さすがに私も買ってくるよ」
「じゃあいいってこと? やった!」
 手を上げて喜ぶものだからついしてしまった返事に後悔した。
「そうは言ってないけど」
 一応反論してみるがもう聞こえていないらしい。やれやれ、取り消せる雰囲気でもなくなったから彼女のお泊まりプランを黙って聞いていた。