勢いよく咳き込むと、急いでお茶を飲み始め、更にお茶を汲んで胃に押しこむ彼の挙動に笑いが込み上げたがグッと我慢する。
 花乃子はその挙動にぽかんとしていた。
「ほ、ほ、星村歩咲い……。嵌めたな!」
「嵌めてません。実際担任からは好評なんですよ、これ」
 酔っ払うと味が分からなくなるから強めの味を好むんだ、と大人の意見を取り入れ、出来たのがこのおにぎり。
 ただ、本来はチーズの割合の方が多く、ピリッと辛味がある程度なのだが、屋詰さんのは特別にからしを多くしてと調理班にお願いしたのは内緒だ。
 意地悪なことばっかり言うからこんな目に遭うのだ。
「いやあ、お茶、置いておいて良かったですねえ」
「星村あ……。君、性格悪すぎだろ」
 もう歩咲ちゃんと呼ぶ気すら起きないらしい。涙目で睨まれ、しかし顔は可愛い人だから凄みはない。
 べ、と舌を出すと花乃子にため息をつかれた。
「もう、歩咲ったら。太郎さんを虐めないで」
「だって屋詰さんがずっと嫌なことを言ってくるんだよ」
「私が歩咲を心配してるように、太郎さんもあの人が心配なの。二人が煮え切らない態度だから余計に太郎さんもやきもきするんだよ」
 花乃子の言葉に、私は何も返せなかった。子どもみたいに唇を尖らせてしまう。
 二人が心配をしてくれていることはもう痛いほど分かっている。きっと屋詰さんも私にだけ言っているわけじゃない。煮え切らない関係……それにも、言い返せる言葉が思い付かない。
 この気持ちに、名前が付けられたら関係が変わるのだろうか。