「来たよー」
 片手を上げて入ってきたのは花乃子と屋詰さんだった。彼女たちを窓際の席に案内し、メニューを渡すと、彼が私を見上げて笑みを浮かべた。
「久しぶりだな」
「面と向かって会うのは……花火大会以来ですね」
 つい身構えてしまうが、鼻で笑われた。
「今日はデートをしに来ただけだ。そんなに睨まないでくれ」
 言われて初めて目付きがきつくなっていたことに気付く。眉間を揉んで、気持ちを切り替えてにこりと笑ってみせた。
「花乃子とお付き合いを始めたそうで。花乃子を傷付けたり、裏切ったら許しませんよ」
「ふん、君が言えたことか」
 私が何をしたと言うのか。全くこの人は。
 ハラハラしている花乃子を横目に、言い返してやろうとすると、まあでも、と続けられた。
「分かってるからいっせと現実では関わらないようにしてる、君のその姿勢に称賛を送りたいとは思ってる。そのまま夢とやらもフェードアウトしていってくれたら」
「もう、太郎さん。歩咲を虐めないで。早く注文して」
「ああ、ごめんごめん」
 呆れたように彼女に制され、やっとその憎たらしい口を止めてメニューに視線を落とす。しかしすぐに眉を顰め、私に視線を向けた。
「何だこのメニュー表は」
「何って、焼きおにぎりのメニュー表ですよ」
「そうじゃなくて。中身が分からないじゃないか」
 彼氏の抗議を受けて、花乃子がメニュー表を見せてくれる。私は分かっていながらニヤニヤを抑えられずに、メニューに視線を落とした。