「……千耀……
なんだよ、これ。
俺の口の中の……」
「飴だけど」
「そんなことはわかってるんだよっ。
……なんで、その……
千耀の口の中にある飴を……」
「あぁ、
一つしかなかったから」
はぁっ⁉
何だよそれっ⁉
それにっ。
なにクールに言ってんだよっ‼
それと表情もっ‼
「それなら
無理にくれなくてもっ」
普通そうだろっ⁉
「じゃあ、
返して」
えっ⁉
千耀っ、ちょっと待て‼
「いやっ、
もういいっ、
もらっておく」
「やっぱ碧海も気に入ったんじゃん。
美味いだろ、飴」
違うわっ‼
千耀がっ。
また顔を近づけて口から飴を奪おうとしたからだろっ。
……まぁ、確かに。
飴は美味い。
それにしても。
どういうつもりだ、千耀のヤツ。
俺のこと、からかったのか?
今、裏道を歩いている。
そのおかげでもあるだろう。
運良く誰にも見られずにすんだ。
ん?
いやいやいやっ、そうじゃないっ。
そもそも。
ダメだっ。
男同士なのにっ。
そうだっ。
これは事故っ。
何かの間違い。
そうなんだ、そうそう。
もう忘れるっ。
うん、そうしよう。
俺は心が広いな。
感謝しろよ、千耀。
衝撃的な飴転がし事件(?)。
そのときから。
一週間が経った。
今のところ何事もなく平穏に過ごすことができている。
「それにしても、
暑いな、マジで。
身体、溶けるわ」
七月上旬。
まだ梅雨明けはしていない。
それでも。
晴れているときは別。
太陽がギラギラしていて。
ものすごく暑い。
「それ、美味そう。
一口ちょうだい」
「うわっ、
何すんだよっ」
「やっぱり美味い」
「千耀、
一口が多過ぎるんだよ」
学校帰り。
俺と千耀はソフトクリームを食べている。
公園のベンチに座って。
そのとき。
千耀が俺のソフトクリームを一口食べた。
満足そうにしている、千耀。
そんな千耀を見ていて思う。
なんか憎めないんだよな、そういう千耀も。
「碧海、
付いてる、口に」
「え?
あぁ、ほんとだ」
早く拭かないと。
ティッシュを……。
んっ⁉
千耀っ、何をしているっ⁉
何が起こったのか。
わからなかった、一瞬。
あまりにも衝撃的なことが起こったから。
「……千耀?」
「どうした、碧海」
「なんだよ、今の」
「今の?」
「だからっ、
……俺の口に……お前の舌が……」
「あぁ、
碧海の口に付いてるって言っただろ、
ソフトクリーム」
「それは聞いたよっ。
だからって、
何で千耀の舌を……」
「拭いた」
「は?」
「碧海の口に付いてるソフトクリーム」
「なんだよ、それっ。
全く意味わかんねぇっ」
「そんなの簡単なことだろ」
「好きなヤツには
そういうことしたくなる。
ただそれだけのことだろ」
今、何て言った?
確かに言ったよな、千耀。
どういうことだ。
ふざけているのか?
からかっているのか?
「……からかってるんだろ」
気付いたら。
言っていた、そんな言葉を。
「からかうわけないだろ」
それならっ。
もっとマズいだろっ。
「ずっと迷ってた、
伝えようかどうか」
千耀?
「だけど、
もう限界だな」
一体何を言おうとしているんだ、千耀。
「気持ちが溢れ過ぎて
抑えることが難しくなっている」
まさか、だよな?
さっきのアレは。
ただの冗談だろ?
「……好きだ」
真剣な表情。
その中にも。
含まれている、甘い表情。
「俺は碧海のことが好きだ」