堤たちと同じクラスになったのは、高校一年のときだった。彼らの悪い噂は聞いていた。中学の時に教師を殴ったとか、地元の不良とつるんでいるとか、たばこを吸っているとか、その種類はいろいろだった。

 とにかく目をつけられないようにしようと、注意はしていたつもりだ。直樹は小学校でも中学校でもいじめられていた。だから、高校では静かに平穏に過ごしたかった。それなのに、堤たちのことを警戒するあまり、不自然に避けてしまったり、目が合ってしまったりして、逆に認識されてしまったのだ。とことんうまくやれない自分に嫌気がさす。

 授業中にゴミを投げつけられたり、彼らの宿題を代わりにさせられたりするようになった。一度は去年の担任に相談もした。しかし返ってきたのは「仲良くしたいんじゃない?」という言葉だった。

 いつだって、先生は助けてなんてくれない。

 過去にはいじめてくるやつに注意をしてくれる先生もいた。けれど、結局彼らが怒られたストレスは、より大きないじめとなって自分に返ってくる。直樹は一年間耐え続けた。二年生になれば、あいつらと別れることができる。それまでの辛抱だ。そう自分に言い聞かせてやってきた。それなのに、神様は意地悪だ。

 直樹の通う高校は、各学年五クラスある。同じクラスにならない確率の方が高いのに、直樹と堤、それに田中と国木までもが、二年連続同じ一組に振り分けられていた。廊下に貼りだされたクラス割りを見たときの絶望は、いまだに忘れられない。

 靴箱まで来ると、ようやく堤が直樹から手を離した。背中をどんっと押される。履き替えろという意味らしい。堤たちの目が直樹から離れた。この隙に逃げてしまおうか。直樹の頭に一瞬そんな考えがよぎった。しかし、すぐにできないことを思い出す。そんなことをすれば、次の日どんな罰が待っているのか、想像するだけで足が震えそうだ。

「体育館裏」

 靴を履き替えた堤が、あごをしゃくった。早くしろ、と立ち尽くす直樹を睨みつける。言われた通りにするのが一番被害を抑えられるということは、いつのまにか直樹の頭にしみついてしまっていた。

 嫌なことに向かわなければいけないとき、直樹はいつも歩くことだけに集中する。

 右足、左足、右足、左足……。

 それだけを繰り返していると、今から始まる地獄の時間のことを考えずに済むからだ。