───波乱の文化祭 真陽side───
文化祭当日。
「今日は回り行かないのか?」
「行きます。先輩の所行きたいので」
「そっか。そんじゃ、いってらっしゃい」
「行ってきます」

保健室を出ると早速沢山の来場者にもみくちゃにされながら先輩のクラスへと着くと
「もー!翼ー?一緒に行こって言ったじゃん」
「俺は言ってない」
紗綾さんと先輩が仲睦まじく手を繋いでいた。
僕は咄嗟に壁に隠れる。
途端に色んな思いがふつふつと湧き上がる。
いつも思っていた何故先輩は紗綾さんを避けないのだろうかと
本当は先輩は紗綾さんが好きなのかと
そしてその日の放課後僕は先輩を避けるようにそのまま家に帰って来てしまった。

文化祭が終わって早2週間先輩は紗綾さんのこともあってか、髪型のこともあってか、あっという間にクラスに馴染み教室へと登校するようになった。
僕ときぃやん先生以外の誰も来なくなった保健室のベッドに篭もり僕は何度も先輩にメッセージを送ろうとしては消しを繰り返していた。
"紗綾さんのことが好きなんですか?"
"どうして会えないのですか?"
「おーい、原」
「なんですか?」
「今日俺弁当忘れてさー。代わりに買いに行ってくんない?」
「嫌ですよ」
「もー買いに行かないなら追い出すぞー」
「それは卑怯じゃないですか?」
と文句を言いながらも僕はきぃやん先生からパンとジュース代とお駄賃を頂き食堂に向かう。

まだ2時間目前の休み時間とはいえ、パンは減るのが早い。
余り物のクロワッサンとホットドッグと胡麻饅頭を買い保健室へと帰還すると入り口に先輩が立っていた。
「先輩?」
「真陽、久しぶり」
「久しぶりです…どうしたんですか?」
「あぁ、ちょっと体育で擦りむいちまった」
「僕、手当てしましょうか?」
「じゃあお願い」
先輩を保健室の中へ招き、椅子に座って貰うと消毒液を取り出しコットンに浸す。
「なぁ、真陽」
「?」
顔を上げながら首を傾げる。
「…俺、やっぱここが一番落ち着くわ」
「…なら、戻って来たらどうですか?誰も文句言う人はここには居ないですよ」
「だよな…っ!痛った…」
思わず顔が歪む先輩に僕は消毒液がヒタヒタに染み込んだコットンを先輩の膝に当てると
悪戯をしたくなり膝に息を吹きかける。
「…ちょっやめ…」
と先輩が頬を赤く染める。
「僕、先輩と仲良くなれたと思ってるのに先輩は紗綾さんが大事なんですか?」
思わず僕は頬が膨らむ。
「紗綾は…俺のせいで心を壊したんだ。だから後ろめたさとか、罪悪感とかから避けにくくて…ごめん」
「じゃあ…紗綾さんのことはなんとも思ってない?」
「思ってない」
「本当に?」
「本当に」
「…じゃあ、一つ聞いても良いですか?」
「ん?」
「どうして紗綾さんは心を先輩のせいで壊したんですか?」
「俺、紗綾に別れ話を持ち掛けたんだ」
「…」
「それで紗綾が別れを嫌がって、あの手この手で復縁をしようとして来たたんだ。でも、全部断ってキッパリ言ったんだ【もう付き合う気はない、】って」
「そしたら、自殺未遂をしてな…未だに手首にその時の切り傷がある。俺は、多分その切り傷が消えてもずっと罪悪感を持ち続けるんだ」
「そんなことが…」
僕は嫉妬とはいえ人の過去の傷を蒸し返して何のためになるんだと自己嫌悪になり俯いていると
「はい!この話はここまで!」
「!?」
場が静かになるのが耐えられなかったのだろうか先輩は声を張り明るい声で話題を引っ張り出し饒舌に語る。
「先輩」
僕は先輩の言葉を遮るように先輩に話しかける。
「僕は先輩に何があっても先輩の味方ですし、先輩が好き…です…勿論、恋愛的な意味で」
「え?」
「え…あっ…い、今のは」
「それって、キスがしたい、とかって言う…」
恥ずかしさで頬が火照りながらも頷く。
「…ありがと…でも」
「同性じゃだめですか?」
「…や、だめとかじゃなくて戸惑ってる…」
「僕はずっと真剣に先輩と結ばれたいと思ってます」
「わかった。俺も真剣に考えてみるわ」
「はい、お返事待ってますから」
「あぁ」