─── 不安と心変わり 真陽side ───
季節は春から初夏に移り変わった5月上旬。
通学路で先輩を見掛けてから徐々に連絡がなくなり、僕達は付き合ってなかったのだろうかと不安になっていた。
「…」
「…なあ」
「何ですか?」
「なんかあったか?」
「…」
僕が先輩と付き合っているなんて言える訳がないので適当に誤魔化す。
「?僕はいつも通りですよ?」
「お前な…意地を張んなよ。見てて不安なんだよ。最近笑わないし、表情だって暗い…」
そしてきぃやん先生は僕を抱き寄せ今にも消えそうな震える声で耳元で囁く。
「お願いだ…居なくなるなよ」
「あの、きぃやん先生!?」
僕は思わずきぃやん先生を押し退けようとする
だが、きぃやん先生はそんな僕に構わずキツく抱き締めベッドに僕を押し倒しほっぺたキスをして
「…翼じゃなくて、俺にしなよ」
と頬を赤く染めながらも真っ直ぐな眼差しで僕を見つめる。
「き、きぃやん先生?」
「…分かったよ。もうしない…ごめんな」
眉を下げてきぃやん先生が離れて行くのを僕は呆然としながら見ていた。
あまりに突然のことで僕はそのまましばらく腰が抜けて呆然としていると
「俺はお前が好きだ。お前と翼が付き合っていることも勿論勘づいてる…もう一度言うぞ…俺にしないか?」
「ごめんなさい…きぃやん先生の気持ちは嬉しいです。でも、僕は先輩が好きなんです」
そして僕は決意した。
きぃやん先生だって僕に気持ちを伝えたんだ、自分の立場だって危ういのに、自分のことは後回しで僕の心配をしてくれた。
そして僕のことを見て居てくれたことが何よりも嬉しかった。
僕も先輩をデートに誘って先輩の気持ちを確かめてみようと…

"先輩、今週土曜日空いてますか?"
"空いてる。どした?"
"先輩と久しぶりに会って話したいので"
"通話じゃ駄目?"
"顔が見たいです"
"ビデオ通話でよくね?"
先輩はそんなに僕と会いたくないのかななんて不安が頭をよぎる。
"そんなに僕と会いたくないですか?"
無意識にマイナスなことをスマホに打ち込んで慌てて送信せずに消去する。
"僕が先輩とデートしたいんです。久しぶりに遊びませんか?"
"わかった、じゃあ土曜日に真陽の家まで迎え行くよ"

そしてデート当日の朝、僕は支度を済ませスマホで時刻を確かめようと持ち上げると先輩からのメッセージの通知が見えた。
"ごめん。今日無理になった"
もう僕のこと嫌いなのかな
"全然大丈夫ですよ。何かあったんですか?"
"ありがと、こっちの問題だから気にすんな"
相談もしてくれないんですか?
信用出来ないですか?
頼りないですか?
僕は先輩の素っ気ない態度とあの日見た光景で改めて先輩は彼女が出来たのだと確信したのだった。