「そういえば、楓音の家上がるの久しぶりだなー。わぁ、おいしそー!もしかして、手料理?」
「うん……自信はないけどね」
 未弦は家の廊下を見渡してからリビングに入り、私が作った料理を前に弾けるような笑顔を見せた。それにニコリと柔らかい笑みを浮かべる。
「じゃあ、お手並み拝見といこうか。で、楓音はまた父さんのカップラーメンなの?」
 未弦はダイニングテーブルの椅子のひとつに腰を降ろしながら口にした。そこは元々母さんの席。
 そして私は自分の席、奏翔はその隣の席に座った。
 ちなみに父さんのカップラーメンは我が家の定番メニューになっており、私はこれを既に飽きるほど食べている。でも無理矢理喉に押し込んでいることの方が多い。
「いいじゃないの、それぐらい」
「楓音は何年経っても変わらないね」
 クスリと笑い合い、それからいただきますをして手をつける。
「未弦、目玉焼きに塩いる?」
「いる!やっぱり、目玉焼きにはこれだよね」
 私は一度席から立ち、冷蔵庫を開けてそれを取り出した。そこで未弦の両親も塩をせがんでくる。未弦は風呂に入る前とは明るい顔を見せていた。姉御肌で誰にでも優しい。それが彼女だ。
「未弦も何年経っても変わらないね」
「楓音は目玉焼きに何もかけないところもね」
 私達はまたクスリと笑い合う。私は昔からだし巻き卵だけは別腹でそれ以外は何もかけないのだ。孤立がちな人生のせいかあまり料理をおいしいと思ったことはない。思おうとしたこともない。だから何かをかける意味もないのだ。
 それは奏翔も同じ部類なのか。彼は「鶏の唐揚げ以外は何もかけない」と言った。いつもレモンの汁をかけて食べているらしい。意外な共通点が見つかり、私は嬉しくなった。