「ごめん……実は、嘘をついてた。私の母さん、まだ生きてるの。交通事故で植物状態になってるんだけど」
「え……マジで!?」
未弦は驚き、目を見開いた。奏翔も頷きながら、未弦たちに本当のことを伝えようとしていた。
「ちょっと待って。それって、もしかして弓彩、楓音の母さんに会いたいってずっとせがんでたのに、うちは何回も死んだって言ってたってこと?」
「そうだよ」
私と奏翔が頷くと、未弦は「なるほどね」と納得した様子だったが、顔は半信半疑のままだった。まさかの事実に、頭が追いついていないのだろう。
「とりあえず、電話かけてみる」
私はジーンズのポケットからスマホを取り出し、母さんの病院名を検索して電話番号と場所を調べた。実際、母さんの病院には事故があった日以来一度も行っていない。愛してもいなかったし、会話もほとんどなかったから、病院名と周囲の景色しか覚えていなかった。そのため、電話番号や地図は全く把握していなかったのだ。
番号を入力し、スピーカーボタンを押して、みんなに聞こえるようにダイニングテーブルの真ん中にスマホを置いた。
電話がつながると、すぐに受け付けの人が出てきた。それから切羽詰まった声で話し始める。
《昨夜からこの病院で迷惑客がいるのですが、その親御さんですか?》
「もしかして弓彩?」
「弓彩なのか!?」
受け付けの人の言葉に、未弦の両親が驚きの表情で叫ぶ。その隣で、未弦は必死に落ち着こうとしながら問いかけた。
「その迷惑客の名前、教えてくれませんか?」
《陽川弓彩です。警察には連絡しないでほしいと懇願されて、仕方なくここに保護しています。でも、家族の番号も教えてくれないんです。それでずっと、血の繋がっていない植物状態の患者に声をかけ――》
「うち、その姉です。すぐ行きます」
未弦は受け付けの人の言葉を遮るように叫び、まるで雨上がりに太陽が顔を出したかのように、満面の笑みを浮かべていた。
「……いるって、いるって!」
電話を切ると、未弦は「やったー!」と涙を流しながら私に飛びついた。未弦の両親も「よかったー!」と抱き合い、弓彩の存在を確認できた喜びを分かち合った。
「わ、わかったから、早く行こう」
その背中を優しく擦りながら、未弦を急かした。未弦の必死さが嬉しくて、私の頬にも涙が流れていた。
「でも、電車とかうるさいと思うし、楓音、大丈夫なの?」
未弦は私から離れながら心配してくれた。一刻も早く弓彩のところに行きたいはずなのに、私の聴覚過敏を気遣ってくれるその優しさに、感謝と謝罪の気持ちが湧いてきた。まるで上司と部下のような関係だと思った。
「じゃあ、パパの車で送るよ」
未弦の父が言い、それから食器を水につけて家を出た。車は、私の聴覚過敏を察してか、異常に静かだった。未弦の父によると、環境に優しい車を使っているらしい。私のためではないとはいえ、そのことにも感謝しかなかった。
高速道路を走り抜け、海に架かる大きな橋を渡る。懐かしい県の田舎の街並みが右から左へと流れていき、そのまま県の中心部に向かって進んだ。大きな病院に到着し、私たちは5人で駆け込んだ。
「え……マジで!?」
未弦は驚き、目を見開いた。奏翔も頷きながら、未弦たちに本当のことを伝えようとしていた。
「ちょっと待って。それって、もしかして弓彩、楓音の母さんに会いたいってずっとせがんでたのに、うちは何回も死んだって言ってたってこと?」
「そうだよ」
私と奏翔が頷くと、未弦は「なるほどね」と納得した様子だったが、顔は半信半疑のままだった。まさかの事実に、頭が追いついていないのだろう。
「とりあえず、電話かけてみる」
私はジーンズのポケットからスマホを取り出し、母さんの病院名を検索して電話番号と場所を調べた。実際、母さんの病院には事故があった日以来一度も行っていない。愛してもいなかったし、会話もほとんどなかったから、病院名と周囲の景色しか覚えていなかった。そのため、電話番号や地図は全く把握していなかったのだ。
番号を入力し、スピーカーボタンを押して、みんなに聞こえるようにダイニングテーブルの真ん中にスマホを置いた。
電話がつながると、すぐに受け付けの人が出てきた。それから切羽詰まった声で話し始める。
《昨夜からこの病院で迷惑客がいるのですが、その親御さんですか?》
「もしかして弓彩?」
「弓彩なのか!?」
受け付けの人の言葉に、未弦の両親が驚きの表情で叫ぶ。その隣で、未弦は必死に落ち着こうとしながら問いかけた。
「その迷惑客の名前、教えてくれませんか?」
《陽川弓彩です。警察には連絡しないでほしいと懇願されて、仕方なくここに保護しています。でも、家族の番号も教えてくれないんです。それでずっと、血の繋がっていない植物状態の患者に声をかけ――》
「うち、その姉です。すぐ行きます」
未弦は受け付けの人の言葉を遮るように叫び、まるで雨上がりに太陽が顔を出したかのように、満面の笑みを浮かべていた。
「……いるって、いるって!」
電話を切ると、未弦は「やったー!」と涙を流しながら私に飛びついた。未弦の両親も「よかったー!」と抱き合い、弓彩の存在を確認できた喜びを分かち合った。
「わ、わかったから、早く行こう」
その背中を優しく擦りながら、未弦を急かした。未弦の必死さが嬉しくて、私の頬にも涙が流れていた。
「でも、電車とかうるさいと思うし、楓音、大丈夫なの?」
未弦は私から離れながら心配してくれた。一刻も早く弓彩のところに行きたいはずなのに、私の聴覚過敏を気遣ってくれるその優しさに、感謝と謝罪の気持ちが湧いてきた。まるで上司と部下のような関係だと思った。
「じゃあ、パパの車で送るよ」
未弦の父が言い、それから食器を水につけて家を出た。車は、私の聴覚過敏を察してか、異常に静かだった。未弦の父によると、環境に優しい車を使っているらしい。私のためではないとはいえ、そのことにも感謝しかなかった。
高速道路を走り抜け、海に架かる大きな橋を渡る。懐かしい県の田舎の街並みが右から左へと流れていき、そのまま県の中心部に向かって進んだ。大きな病院に到着し、私たちは5人で駆け込んだ。