小紫色のリボンが結ばれた灰色のセーラー服。それが私の冬用制服だ。首から下げ、そのセーラー服の中に隠してあるペンダントを取り出す。銀色の鎖の真ん中には細長いケースがついていた。そのフタを開けると、くしゃくしゃに笑っているおばあちゃんの写真が入っている。人見知りで怖がりな私を唯一真正面から見て、本当の家族のように育ててくれた、たったひとりの人。
【天国から楓音にぴったりの人を探してあげるね。ばあちゃんの代わりになってくれそうな人を見つけるから、安心してね。楓音がどんなによくあるかわいい名前なのに地味だとか、名前負けしてるなんてバカにされても、お母さんやお父さんが楓音をちゃんと見てくれなくても、ばあちゃんはずっと楓音の味方よ。孫なんだから当たり前でしょ。だからね、笑って生きていってね】
 それは、おばあちゃんが最後に残してくれた置き手紙だった。母さんが事故に遭った直後、おばあちゃんは自ら命を絶った。年老いた身体に苦しみを覚え、これ以上私に迷惑をかけたくないと思った末の決断だったという。
 しかし、私はその苦しみに全く気づけなかった。おばあちゃんはいつも笑顔を絶やさなかったからだ。その悲しみは、今でも昨日のことのように鮮明に蘇る。あれからもう3年が経とうとしているのに。
「……おばあちゃん」
 これからどうやって生きていけばいいの? 笑って生きるなんて、無理難題を残して消えないでよ。もう、とっくに限界なんだ。ごめんなさい。
 そう謝りながら、スカートのポケットから黄色いカッターを取り出した。黒い靴下をめくり、露わになった肌を斬りつける。
 人を殺した加害者なのに、何をしているんだ。これでは、まるで被害者気取りじゃないか。
 そう思われるだろう。でも、私はこうしていないと生きていけない。3年間斬りつけ続けた足は、もうボロボロだ。新しいかさぶたもできていて、その醜さに自分でも吐き気がするほどだ。
 じわりと血が滲み、鋭い痛みが走る。その瞬間、息が荒くなり、嗚咽が漏れた。そして、堰を切ったように呻き声が溢れ出す。
 やっぱり、笑うなんてムリだよ。助けてよ、おばあちゃん。
 いっそ、感情なんて壊れてしまえばいいのに。そうすれば、すべてが楽になるだろう。こんな情けない自分が、本当に大嫌いだ。