受験に染まらないクリスマス、お正月を終えてすぐ、
共通テストを受ける。

ハードスケジュールをこなしたあとは、
私の高校の特色の一つである「二次試験対策、個別指導」が始まる。

そもそも大学受験をする人が少ないこと、さらには先生の面倒見がいいこと、
そんな要素が重なって「伝統」となっているらしい。

いつまでも昔のことを引きずっている伝統には首を傾げるものもあるけれど、
この伝統は引き継いでいってほしいな、なんて思う。

私は、推薦入試を受ける予定だから、
科目の勉強よりは「面接指導」を主に受けることになっている。
面接指導の担当は、学年主任の伊藤先生だというから自然と気が引き締まる。

学校の授業がない分、いくらか軽くなったリュックサックを背負って教室に着くと、
いつものように星宮君が座っていた。

「おはよう、下原さん。」

相変わらず赤本を解き続ける星宮君は、私に気づいて顔をあげる。

「おはよう、星宮君。」

共通テストが終わって「自由登校」となったおかげで、
実質「春休み」となり、教室に出入りするのはついに私と星宮君の二人になった。

そんなことを考えながら席に着くと、星宮君が口をひらく。

「なんか、教室っていうか学習部屋って感じだよね。」

「私と星宮君しか使ってないしね。」

星宮君の言葉に頷きつつ、
世界は回っているなぁ、なんて考える。

「下原さんは?受験、いつ終わるの?」

「終わってほしいのは、二月の初め。」

共通テストの点数と願書を提出し、
二月の初めに面接を受けにいったら、結果は二月の初めに発表される。

つまり、トントン拍子で話が進んでいったら、
私の受験はあと一ヶ月足らずで終わる計算になる。

「そっかぁ、俺は普通に三月頭でさ…気が抜けないな〜」

大きな伸びをしながら星宮君は言う。

「お互い、いい結果になるといいね。」

笑いかけてくる星宮君に私は訂正する。

「いい結果、にするんだよ。」

一瞬目を丸くした星宮君はすぐに私のいっていることを理解したのか、

「うん、そうだね。」

と言葉を噛み締める。

勉強しに学校にきている私たちだけど、
こんな言葉を交換し合うことが、ある意味で心の拠り所になっているのかもしれない。

星宮君にとって、私の言葉がちょっとでも休息場所になっていたらいいな、なんて考える。