「皆さん、おはようございます。
夏休みが終わり、二学期を迎えました。」

新学期のワクワク、ドキドキ感で胸をいっぱいにしている
三年八組を前に、小谷先生が朝のHRを始める。

「二学期といえば、文化祭ですね。
明日の総合の時間では、文化祭の出し物を決めようと思っているので、
皆さん、考えておいてください。」

文化祭、というワードに湧き立った三年八組。

小谷先生からの連絡事項をこれ以上聞き取ることはできなく、
日本語のリスニングテストの難しさを痛感した。


「な、文化祭の出し物、何にする?」

朝のHR後の短い休み時間の中、
一限目が移動教室の手間がない国語の授業ということで、
会話が弾む。

「文化祭、三年は何をテーマにするんだっけ?」

文化祭の大役を担う五十嵐君に、星宮君が尋ねる。

「一年と二年は、飲食以外のレクリエーション系。
例えば、お化け屋敷とか、劇とか、食べ物を出さなければなんでもよし。
三年は、売店が出せるから、基本、飲食関係の出し物になるはず。
例年、チーズボールとか、ホットドッグとか、あと、ポテトが多いかな。」

「さっすが、生徒会長〜。頼りになる〜。」

出し物の例まであげた説明をしてくれた五十嵐君を、
林さんがはやしたてる。

「ま、でも、このクラスの文化祭の主役は俺じゃないしな。」

林さんに流石、と言われたせいか、紅潮した顔の五十嵐君。
その彼の視線が私に注がれていることに気づき、顔を上げる。

「文化新星委員の下原ひなたっ。三年八組をよろしく頼むっ!」

わざとらしく一礼する五十嵐君をみて、
一学期の委員会決めのことを思い出す。

  ***

林さんが室長に立候補し、他に候補者がいなかったことで、
林さんが室長に任命された。

その後、決めないといけない主要な委員は、「文化新星委員」だった。

文化新星委員とは、名前だけがかっこいい肩書きで、
実質は文化祭の運営を任される、多忙な委員だ。

受験生、ということもあるし夏休み後に本格的に仕事が始まり、
責任感と提出書類が肩にのしかかる役職だからこそ、
立候補者は誰もいなかった。

すでに、前日の自己紹介で時間を使いすぎていた三年八組であったのにも関わらず、
翌日の委員会決めでも時間を使いすぎるとは一体どういうことか。

先生も手に負えない、とでもいうかのように頭を抱えている。

考える前に行動しがちな私だけど、
このまま誰も立候補せずに、時間が経つことだけを待つのは嫌だと思い、

「他に立候補者がいないなら、私がなってもいいです。」

一人、挙手をしてしまっていた。

  ***

そんな、一学期の思いつきの行動のツケがまわってきたのか、
二学期の初っ端から、その先の多忙さを心配する私。

(よろしく、と言われても…)

五十嵐君の言葉になんて返事すればいいのか分からずに、

「頑張ります。」と頷くことしかできなかった。