普通列車を待つ駅のホームで、
五十嵐君の進路相談を実施してから十日が経った。
あの日から、
五十嵐君の私に対する態度は、今まで以上に熱をもったものとなった。
「おはよー、晴輝!と、おはよー下原っ!」
朝から盛大な声で挨拶をする五十嵐君におはよう、と笑顔で返した星宮君の後、
そっと、おはよう、と返し隣の席にドカッと音をたてながら座る五十嵐君に目をやる。
予鈴がなった後に教室に滑り込む彼は、
ギリギリ「遅刻組」ではない。
(今までは眠そうな目をこすりながら机に倒れ込むだけだったのに…)
人間はこうも簡単に変わってしまう。
私と話をした翌日、
彼は朝のHRが終わった後、みんなの前で高らかに宣言したのだ。
「諸君、驚くなかれ。生徒会長、五十嵐颯太。
大学に進学することとするっ!」
え、みんなの前で宣言するの?と隣に目をやると、
どこで覚えてきたのか、フランスのナポレオンのごとく右手を大きく掲げ、
目は空を…つまり、何もない教室の天井を見つめていた五十嵐君がいた。
きっと、えーーー、みたいな盛大なリアクションを期待していただろうが、
タイミングがタイミングであった。
朝のHR、ほとんどの生徒が半分寝た状態で教室に入り込み、
かろうじて椅子に座り、残りの半分も眠りに浸らせているその時間に、
五十嵐君の言葉が耳に届いている生徒は少なかった。
「そっか、応援してる。」
と一人、暖かなリアクションをしてくれた星宮君の言葉によって
五十嵐君のポージングは解かれたのであった。
それからというもの、五十嵐君は毎日元気に登校し、
そして私に元気に挨拶をするという余計なことまでするようになった。
(そんな元気があるなら、もっと早くに来て勉強すればいいのに…)
という考えがよぎった私に、そんなことをされたらあなたの平和な朝の時間が潰されるよっと私の理性が必死に叫ぶ。
五十嵐君がするようになった余計なこと、のおかげで、
私に対するクラスの人たちの視線も変わった。
今までは、クラスで唯一教科書を読む下原ひなた。
今は、五十嵐君の友達の下原ひなた。
彼らの代表五十嵐颯太、という存在が私に近づいたことで、
三年八組は私に親近感を抱くようになったらしい。
(挨拶してるだけで友達認定されるとか、小学校じゃあるまいし…)と内心思いながらも、
五十嵐君の影響力には一目置いた。
五十嵐君自身はなんとも思っていないだろうが、
人に影響を与える力、はアピールするべき強みだってことを
いつか教えてあげないといけない。
(私がしなくても、誰かはしてくれるか…)
そう、例えば…
「おはようございますっ!」
朝のHR開始を知らせる本鈴をバックミュージックに、林さんが教室に入ってきた。
彼女とは遠い席に座る私たち三人に笑顔を向け、
手を振ってから席に着く。
こんなクラスの中心No.1と2に絡まれる私って…
「はい、では朝のHRを開始したいと思います。まずは、連絡事項…」
いつものように連絡事項を伝え始める小谷先生の声をききながら、
私は自分が置かれているこの状況を分析し始める。
(そもそも、去年クラス写真撮影の時点で、自分から林さんに関わったことがことの発端だと…)
いや、でも去年は林さんにあまり話しかけられなかったな。
と考え直し、
(あ、じゃあ林さんの隣で写真を撮るときに五十嵐君が絡んできたことか!)
いや、あの時五十嵐君とあまり話さなかったよな…
(そっか、その後五十嵐君の相談に乗ったのが悪かったんだ!)
ここまで考えて、私は一つの答えに辿り着いた。
(え、結局私のせいじゃん。)
自分が蒔いた種は、自分で拾う。
そして、自分が蒔いた問題は、自分で解決する。
はぁーっとため息が漏れそうになった私だったが、
斜め前の席に座る星宮君の背中を見てふと思った。
(星宮君は、なんで私に絡んでるんだろう。)
その答えは、結局私の頭に考えさせても出てこなかった。
五十嵐君の進路相談を実施してから十日が経った。
あの日から、
五十嵐君の私に対する態度は、今まで以上に熱をもったものとなった。
「おはよー、晴輝!と、おはよー下原っ!」
朝から盛大な声で挨拶をする五十嵐君におはよう、と笑顔で返した星宮君の後、
そっと、おはよう、と返し隣の席にドカッと音をたてながら座る五十嵐君に目をやる。
予鈴がなった後に教室に滑り込む彼は、
ギリギリ「遅刻組」ではない。
(今までは眠そうな目をこすりながら机に倒れ込むだけだったのに…)
人間はこうも簡単に変わってしまう。
私と話をした翌日、
彼は朝のHRが終わった後、みんなの前で高らかに宣言したのだ。
「諸君、驚くなかれ。生徒会長、五十嵐颯太。
大学に進学することとするっ!」
え、みんなの前で宣言するの?と隣に目をやると、
どこで覚えてきたのか、フランスのナポレオンのごとく右手を大きく掲げ、
目は空を…つまり、何もない教室の天井を見つめていた五十嵐君がいた。
きっと、えーーー、みたいな盛大なリアクションを期待していただろうが、
タイミングがタイミングであった。
朝のHR、ほとんどの生徒が半分寝た状態で教室に入り込み、
かろうじて椅子に座り、残りの半分も眠りに浸らせているその時間に、
五十嵐君の言葉が耳に届いている生徒は少なかった。
「そっか、応援してる。」
と一人、暖かなリアクションをしてくれた星宮君の言葉によって
五十嵐君のポージングは解かれたのであった。
それからというもの、五十嵐君は毎日元気に登校し、
そして私に元気に挨拶をするという余計なことまでするようになった。
(そんな元気があるなら、もっと早くに来て勉強すればいいのに…)
という考えがよぎった私に、そんなことをされたらあなたの平和な朝の時間が潰されるよっと私の理性が必死に叫ぶ。
五十嵐君がするようになった余計なこと、のおかげで、
私に対するクラスの人たちの視線も変わった。
今までは、クラスで唯一教科書を読む下原ひなた。
今は、五十嵐君の友達の下原ひなた。
彼らの代表五十嵐颯太、という存在が私に近づいたことで、
三年八組は私に親近感を抱くようになったらしい。
(挨拶してるだけで友達認定されるとか、小学校じゃあるまいし…)と内心思いながらも、
五十嵐君の影響力には一目置いた。
五十嵐君自身はなんとも思っていないだろうが、
人に影響を与える力、はアピールするべき強みだってことを
いつか教えてあげないといけない。
(私がしなくても、誰かはしてくれるか…)
そう、例えば…
「おはようございますっ!」
朝のHR開始を知らせる本鈴をバックミュージックに、林さんが教室に入ってきた。
彼女とは遠い席に座る私たち三人に笑顔を向け、
手を振ってから席に着く。
こんなクラスの中心No.1と2に絡まれる私って…
「はい、では朝のHRを開始したいと思います。まずは、連絡事項…」
いつものように連絡事項を伝え始める小谷先生の声をききながら、
私は自分が置かれているこの状況を分析し始める。
(そもそも、去年クラス写真撮影の時点で、自分から林さんに関わったことがことの発端だと…)
いや、でも去年は林さんにあまり話しかけられなかったな。
と考え直し、
(あ、じゃあ林さんの隣で写真を撮るときに五十嵐君が絡んできたことか!)
いや、あの時五十嵐君とあまり話さなかったよな…
(そっか、その後五十嵐君の相談に乗ったのが悪かったんだ!)
ここまで考えて、私は一つの答えに辿り着いた。
(え、結局私のせいじゃん。)
自分が蒔いた種は、自分で拾う。
そして、自分が蒔いた問題は、自分で解決する。
はぁーっとため息が漏れそうになった私だったが、
斜め前の席に座る星宮君の背中を見てふと思った。
(星宮君は、なんで私に絡んでるんだろう。)
その答えは、結局私の頭に考えさせても出てこなかった。