私が小学校六年生の時、クラスでいじめがあった。
今、思い出したわけではなくて、思い出さないように、
ガムテープでぐるぐる巻きにして心の一番深いところにおいていった過去。
当時、六年生は相当荒れていたらしく、三クラスどこでもいじめが起こっていた。
他人事のように、流せれば良かった。
でも、
「いじめは傍観者も加害者の一部です。」
毎年の人権学習で耳にしていた言葉に、私は耐え切ることができなかった。
あんな酷いことをしている加害者と同じにはされたくなかった。
「周りの大人に、声をかけましょう。SOSのサインを出しましょう。
大人は、助けてあげますから。」
そんな頼りを信じて、何かあれば、先生に言えばいい、
そう思って、自分から飛び込んだ。
考える前に飛び込んで、そして大きく転ぶ私だけど、
あの時は考えた後で飛び込んで、そして、
大きな怪我をした。
あれから中学校に進学し、
何事もなかったかのように振る舞っていた私だったけど、
毎年のようにくる人権学習で作文を書く授業があり、
中学校でできた新しい友達とは共有できない私の過去を文章にした。
人には言えない過去だからこそ、文字にすることで楽になった。
授業が終わっても、思いを全部ぶつけることができなかった私は
放課後も残ってひたすら原稿用紙に自分の痛みを流し込んだ。
「提出物はその日のうちに終わらせる。」
をモットーにしていた私が原稿用紙を手に職員室にいくと、
担任の先生は私のことを待ってくれていた。
提出が遅れてすみません、
と形式的な挨拶をして頭を下げた私に
先生は仕事が長引くことを気にも留めず、
大丈夫、しっかり考えましたね、
と言って原稿用紙を受け取った。
その日は、お願いします、と再度挨拶をしてから職員室をあとにした。
次の日、
朝なに勉強しようかな、
なんて考えながら早く学校に着いた私を待っていたのは、
原稿用紙を抱えた先生だった。
え、何か悪いこと書いたのかな
と不安になった私に先生は声をかけた。
「下原さん、おはようございます。」
「おはようございます…」
と会釈をした私を満足気に見つめた先生は、
「今度、地域の小中学校で集まって合同の人権学習会を行うんですよね。」
と微笑みながら言った。
先生の意図を汲み取れず、
あ、そうなんですか、
としか返事ができなかった私に先生は続けた。
「そこで、下原さんにこの作文を朗読してもらいたいのですが、よろしいですか?
あ、もちろん、個人的な内容についてはスピーチしていただかなくても大丈夫です。
あとはこの作文に少し添削を加えたものを読んでもらうことになります。」
そして、このオファーは担任の先生独断ではない、とのことが付け加えられた。
少し、考えさせてください。
と返事をした私だったが、
正直、
どうやって断るか、ということを考えていただけだった。
私の経験は、ただ痛ましいものであって、共有するべきものではない。
だからこそ、友達にも言わないで黙っていた過去なのに、みんなの前で語るべきか?
そう思った私は、
みんなって誰だ?
と疑問を抱いた。
小中学校との合同イベントとは、
つまり、ほとんどの人は
私が知らない人、そして私を知らない人。
そんな人たちにどう思われようが私の知るところではないし、
人生で一度会うか会わないか、そんなレベルの人たちだ。
文字にすると楽になった。
言葉にすると、もっと楽になるのではないか。
マイクを持って人前で発表することに快楽を覚えていた私は、
自分が楽になることだけを考えて、
このオファーを受け取った。
今、思い出したわけではなくて、思い出さないように、
ガムテープでぐるぐる巻きにして心の一番深いところにおいていった過去。
当時、六年生は相当荒れていたらしく、三クラスどこでもいじめが起こっていた。
他人事のように、流せれば良かった。
でも、
「いじめは傍観者も加害者の一部です。」
毎年の人権学習で耳にしていた言葉に、私は耐え切ることができなかった。
あんな酷いことをしている加害者と同じにはされたくなかった。
「周りの大人に、声をかけましょう。SOSのサインを出しましょう。
大人は、助けてあげますから。」
そんな頼りを信じて、何かあれば、先生に言えばいい、
そう思って、自分から飛び込んだ。
考える前に飛び込んで、そして大きく転ぶ私だけど、
あの時は考えた後で飛び込んで、そして、
大きな怪我をした。
あれから中学校に進学し、
何事もなかったかのように振る舞っていた私だったけど、
毎年のようにくる人権学習で作文を書く授業があり、
中学校でできた新しい友達とは共有できない私の過去を文章にした。
人には言えない過去だからこそ、文字にすることで楽になった。
授業が終わっても、思いを全部ぶつけることができなかった私は
放課後も残ってひたすら原稿用紙に自分の痛みを流し込んだ。
「提出物はその日のうちに終わらせる。」
をモットーにしていた私が原稿用紙を手に職員室にいくと、
担任の先生は私のことを待ってくれていた。
提出が遅れてすみません、
と形式的な挨拶をして頭を下げた私に
先生は仕事が長引くことを気にも留めず、
大丈夫、しっかり考えましたね、
と言って原稿用紙を受け取った。
その日は、お願いします、と再度挨拶をしてから職員室をあとにした。
次の日、
朝なに勉強しようかな、
なんて考えながら早く学校に着いた私を待っていたのは、
原稿用紙を抱えた先生だった。
え、何か悪いこと書いたのかな
と不安になった私に先生は声をかけた。
「下原さん、おはようございます。」
「おはようございます…」
と会釈をした私を満足気に見つめた先生は、
「今度、地域の小中学校で集まって合同の人権学習会を行うんですよね。」
と微笑みながら言った。
先生の意図を汲み取れず、
あ、そうなんですか、
としか返事ができなかった私に先生は続けた。
「そこで、下原さんにこの作文を朗読してもらいたいのですが、よろしいですか?
あ、もちろん、個人的な内容についてはスピーチしていただかなくても大丈夫です。
あとはこの作文に少し添削を加えたものを読んでもらうことになります。」
そして、このオファーは担任の先生独断ではない、とのことが付け加えられた。
少し、考えさせてください。
と返事をした私だったが、
正直、
どうやって断るか、ということを考えていただけだった。
私の経験は、ただ痛ましいものであって、共有するべきものではない。
だからこそ、友達にも言わないで黙っていた過去なのに、みんなの前で語るべきか?
そう思った私は、
みんなって誰だ?
と疑問を抱いた。
小中学校との合同イベントとは、
つまり、ほとんどの人は
私が知らない人、そして私を知らない人。
そんな人たちにどう思われようが私の知るところではないし、
人生で一度会うか会わないか、そんなレベルの人たちだ。
文字にすると楽になった。
言葉にすると、もっと楽になるのではないか。
マイクを持って人前で発表することに快楽を覚えていた私は、
自分が楽になることだけを考えて、
このオファーを受け取った。