ようやく全員が名前を記入し終わり、
紙を受けとった先生が黒板に座席表を白いチョークで書き始める。
黒板の上の方に教卓、と達筆な字で書き、
一番前の列から名前を書き始める。
緊張感が一段と増す瞬間だ。
生徒の多くは、一番前に行くことを嫌がる。
内職できない、
授業中に眠れない、
先生にやたらと指名される、
ノートを覗かれる…
などと合理的な理由が生徒から述べられるが、私にとってはどれも大した問題ではなかった。
(一番前の席は、先生に質問できて、便利なんだけどな。)
一番後ろの席にはなりませんように、と祈りながら
先生が黒板をみんなの名前で埋め尽くすのを静かに待つことにした。
誰かの名前が書かれるたび、盛大なリアクションが伴う席順発表。
カッカッカという先生がチョークで書いている音だけが聞こえた時、
(あ、私の名前だ)
と思い、教科書から顔を上げる。
もうほとんどの席に名前が書いてある座席表が目の前に広がる中、
教室の左側、つまり窓側の一番後ろ、そこに「下原」と書いてあった。
え、と思い、再度黒板を見つめる。
教卓、とはかけ離れた一番後ろ。
何秒何分見つめても、私の名前はそこにあった。
予測できない未来を待っている時、
「これだけは嫌だな、避けたいな」
というものを考えてはいけないのだと、
その瞬間痛感した。
「はい、それでは新しい席に皆さん動いてくださいね。
これから一学期が終わるまで、この席で過ごすことになります。
隣の人や、班の人にきちんと挨拶をしてくださいね。」
そう言った先生の声を合図に、
荷物をまとめ、椅子を机の上に乗せた三年八組はゾロゾロと移動を開始した。
一番前の席から、一番後ろの席へ。
きっとこのクラスで一番移動するであろう私があたふたしていると、
「ひなたぁ、席、離れちゃったね〜」
と林さんが後ろから声をかけてくる。
そうだね、と曖昧な返事を返すと、
「てか、颯太がひなたの隣とか、あの人絶対ひなたの無駄遣いしているって!」
とわめき始める。
そうだね、と返そうとして「へっ?」と黒板に目をやると、
下原、の隣に五十嵐とこれまた達筆な字で書いてある。
(隣が五十嵐君か…)
と嬉しく思えばいいのか、期待はずれなのか
正しい感情に行き当たらないまま、林さんに向き直る。
あーあ、颯太と席、変わってもらえないかな…と空を仰ぐ林さんと、
「ま、数字の運命ってヤツで。よろしくな、下原!」
と元気な五十嵐君が目に映り、
この先、生徒会長の五十嵐君の熱に負けそうだなと感じた。
紙を受けとった先生が黒板に座席表を白いチョークで書き始める。
黒板の上の方に教卓、と達筆な字で書き、
一番前の列から名前を書き始める。
緊張感が一段と増す瞬間だ。
生徒の多くは、一番前に行くことを嫌がる。
内職できない、
授業中に眠れない、
先生にやたらと指名される、
ノートを覗かれる…
などと合理的な理由が生徒から述べられるが、私にとってはどれも大した問題ではなかった。
(一番前の席は、先生に質問できて、便利なんだけどな。)
一番後ろの席にはなりませんように、と祈りながら
先生が黒板をみんなの名前で埋め尽くすのを静かに待つことにした。
誰かの名前が書かれるたび、盛大なリアクションが伴う席順発表。
カッカッカという先生がチョークで書いている音だけが聞こえた時、
(あ、私の名前だ)
と思い、教科書から顔を上げる。
もうほとんどの席に名前が書いてある座席表が目の前に広がる中、
教室の左側、つまり窓側の一番後ろ、そこに「下原」と書いてあった。
え、と思い、再度黒板を見つめる。
教卓、とはかけ離れた一番後ろ。
何秒何分見つめても、私の名前はそこにあった。
予測できない未来を待っている時、
「これだけは嫌だな、避けたいな」
というものを考えてはいけないのだと、
その瞬間痛感した。
「はい、それでは新しい席に皆さん動いてくださいね。
これから一学期が終わるまで、この席で過ごすことになります。
隣の人や、班の人にきちんと挨拶をしてくださいね。」
そう言った先生の声を合図に、
荷物をまとめ、椅子を机の上に乗せた三年八組はゾロゾロと移動を開始した。
一番前の席から、一番後ろの席へ。
きっとこのクラスで一番移動するであろう私があたふたしていると、
「ひなたぁ、席、離れちゃったね〜」
と林さんが後ろから声をかけてくる。
そうだね、と曖昧な返事を返すと、
「てか、颯太がひなたの隣とか、あの人絶対ひなたの無駄遣いしているって!」
とわめき始める。
そうだね、と返そうとして「へっ?」と黒板に目をやると、
下原、の隣に五十嵐とこれまた達筆な字で書いてある。
(隣が五十嵐君か…)
と嬉しく思えばいいのか、期待はずれなのか
正しい感情に行き当たらないまま、林さんに向き直る。
あーあ、颯太と席、変わってもらえないかな…と空を仰ぐ林さんと、
「ま、数字の運命ってヤツで。よろしくな、下原!」
と元気な五十嵐君が目に映り、
この先、生徒会長の五十嵐君の熱に負けそうだなと感じた。