次の日。
英子は元気に学校に来た。
登校してきてすぐ、風奏は英子を捕まえ、耳打ちする。
「ねえ、英子、Chizu-ruっていうシンガーソングライター、知ってる?」
「藍川と同じ名前ね。」
「シーッ!」
風奏は慌てて人差し指を口の前に持っていく。
「どうしたの?」
教室だから誰が聞いてるかわからない。
「実はね、まさに千絃なんだって。そのChizu-ruって歌手。」
「えぇ??そうなの?」
慌ててスマホを取り出して調べ始めた。
「ホントだ、、。あっ!この人とバンド組んでたんだ。この人のギター、最近ネットで有名で。Lichiって人。2人とも顔出しはしてないみたいだけど。、、Chizu-ruが歌作って、自分で歌って、Lichiが楽器演奏担当か。」
「あのさ、Lichiって、、村雨くんのことだと思う。」
「そうなの。、、、え?、、えぇぇぇえ!?嘘!そうなの?」
「らしいよ。千絃がChizu-ruで、村雨くんが、Lichiなんだって。」
「ホントに?すごいわ〜!そっか村雨くんって下の名前が律だから、りち。違う読み方をしたってことね。」
納得したように頷く英子。
「千絃よく、村雨くんのこと、りち、って呼んでるし。村雨くんは、千絃のこと、ちづって呼んでるよね。」
「確かに。」
密かに2人で密談している。
「あ!もしかして、この前のテスト終わり、2人が喋ってたの、このことじゃない?」
と英子が風奏にスマホの検索画面を見せた。
「えっと、、。『お待たせしました!新曲リリースですッ!テスト期間で忙しくて、予定より遅くなってしまいました!すみません!お楽しみ下さい。“ i want to listen to your voice ”』あ、本当だね。あの時話してたのって、やっと新曲がリリースできるってことだったんだ。、、すごい。普通に動画再生回数、100万超えてる。」
「あの2人、すごいわね。雲の上の存在っていうか。あたし、追いつけるかな?、、うんん。こんなこと言ったらダメだよね。」
自嘲気味に呟いた。
「私も。2人が遠く感じちゃう。でも、、そうやって活躍して、みんなに笑顔を届ける2人、ホント尊敬しかないよね。嬉しくもある。」
「うん。そうね!」
笑顔で頷きあった。
「あたし、村雨くんのギター、生で聴きたいな。」
「千絃の歌、綺麗で、すごかったな、、。」
「え?生で聴いたの?」
「うん、歌ってくれた。」
嬉しそうに風奏が微笑んだ。
「そう、、やっぱり、風奏って、、。」
「うん?なに?」
「、、いや、やっぱりいいわ。」
英子は首を振り、言葉を濁した。
放課後。
風奏は千絃のもとに行った。
今日は珍しく朝から授業に参加していなかった。昼休みにもいなかったが、律によると学校に来てはいるらしい。最近はサボり癖が治ってきたと思っていた風奏だったが、やっぱり、という感想を持った。
「千絃ー?いるんでしょー?」
風奏は屋上へ向けて声をかけた。音楽室にもいないから、屋上しかないと思い、叫んだのだった。
でも、返事は返ってこなかった。
仕方がない。登るか、、。と風奏は決意して、屋上へ登る梯子に足を掛けた。
「怖ッ!」
壁を登る形になっているから、身を乗り出すことになる。思わず悲鳴が出る風奏。
身震いしながら少しずつ登った。
「やっと、登れた。」
フーっと息を吐き、屋上を見渡した。
「千絃ー!いるんでしょ?」
返事がない。
「千絃ー?」
本当にいないのだろうか。戸惑い見上げると、横たわる足が見えた。
「いた。」
千絃は屋上へ登る階段のコンクリートの屋根の上に寝転んでいた。
「この梯子、登る必要なかったじゃん!」
階段の存在を知らなかった風奏は思わず叫ぶ。
どうやって彼処へ登ったのだろうと思って風奏は見回すと、壁に梯子があった。また梯子か、、。と呆れながら風奏は登った。
千絃は寝転んで、目を閉じていた。
「千絃!!」
風奏は目を閉じている千絃に、叫んだ。
「うわッ!?」
驚いたように起き上がり左右を見た。
「授業にも参加しないで、寝てたの?、、。起こしちゃってごめんね。」
一応謝る風奏。
「あ、、。あぁ、、。」
「どうしたの?」
いつもの威勢は何処へ行ったのか、放心状態で頷いた。
「な、、なんでもねぇよ、、。」
力なく言う。
「それならいいけど、、。」
風奏は深くは訊かなかった。
「そんで、なんだよ?」
いきなりいつもの威勢に戻った。
「え、、?あ、あぁ。この前のお礼。言いにきた。あの時、私の話を聴いてくれて、ありがとう。背中を押してくれてありがとう。もし、千絃がいなかったら、私、一歩踏み出せなかったと思う。だから、ありがと!」
キラキラした笑顔を見せた。
「、、お前、なんか変わったな。」
「え?そう?」
「あぁ。いっつも謝ってばっかだったのに、今度はありがとうばっか言うようになった。」
「千絃が、いろんなこと、気づかせてくれたんだよ。」
「ッ!?」
「ありがと。」
「、、俺、なんにもしてねぇよ。」
驚いたように目を見開けながら言った。
「うんん。千絃のおかげだよ。私、英子のことちゃんと知れてないって気づけたし。それになにより、千絃の言葉に助けられたんだ。本当にありがと。」
「、、おう。」
風奏は景色を眺めながら座り込んだ。
千絃は横目で風奏を見つめたあと、風奏の後ろに座った。2人は背中合わせになった。
「千絃?」
振り向こうとした途端。
「黙って前向いとけ。」
千絃は鋭く言い放った。隣の方が喋りやすいのに、、。しかも、喧嘩してるみたいじゃん、、。と思いながら風奏は空を眺めた。真っ青な綺麗な空を。
その時。
千絃の歌が、聴こえた。
聴いたことない曲だった。しかも、英語で意味がよくわからない。
でも、すごく綺麗な曲だと風奏は感じた。
哀しくて、でも優しくて、包み込まれてしまうような、そんな雰囲気の曲だった。
ずっと聴いていたい、、。と思わせるような曲だった。
息を呑んで風奏は聴いていた。
「俺の、、デビュー曲。」
歌い終わった千絃は短く言った。
「曲名は?」
「Night Melody」
「Night、、Melody、、。いい曲だね。」
感動で涙ぐんで言った。
「これが、、、千絃の、音なんだね。」
風奏は千絃にもたれかかった。それに応えるように千絃も、もたれかかった。後頭部がコツンと当たる。
「千絃のおかげだよ。」
「あん?」
「千絃のおかげで、自分に自信が持てた。ピアノも、弾けるようになった。ありがと。」
呟くように風奏は言った。
少しずつだけど、千絃のことが、わかってきた風奏だった。恥ずかしがり屋だけど、芯は強くて、真っ直ぐ。歌で、みんなに勇気を与えることができる人。感動を与えることができる人。
このまま、時が止まって、ずっと、、、ずっと、、千絃と、いたい。勇気を与えてくる、私を変えてくれた、千絃と、いたい。
風奏は、そう、2人を照らし眺める青空に願った。
でも、、。
──でも、、それが、すぐに叶わなくなることだって、わかるなんて思わなかった。
ずっと、、永遠に、、続いて欲しかった、、。
風奏は、まだ知らなかった。
永遠に、続くと思っていた幸せな時間が、終わってしまうことを。楽しいことには、いつか、終わりが来てしまうことを。
でも、永遠に、続いて欲しかった。
英子は元気に学校に来た。
登校してきてすぐ、風奏は英子を捕まえ、耳打ちする。
「ねえ、英子、Chizu-ruっていうシンガーソングライター、知ってる?」
「藍川と同じ名前ね。」
「シーッ!」
風奏は慌てて人差し指を口の前に持っていく。
「どうしたの?」
教室だから誰が聞いてるかわからない。
「実はね、まさに千絃なんだって。そのChizu-ruって歌手。」
「えぇ??そうなの?」
慌ててスマホを取り出して調べ始めた。
「ホントだ、、。あっ!この人とバンド組んでたんだ。この人のギター、最近ネットで有名で。Lichiって人。2人とも顔出しはしてないみたいだけど。、、Chizu-ruが歌作って、自分で歌って、Lichiが楽器演奏担当か。」
「あのさ、Lichiって、、村雨くんのことだと思う。」
「そうなの。、、、え?、、えぇぇぇえ!?嘘!そうなの?」
「らしいよ。千絃がChizu-ruで、村雨くんが、Lichiなんだって。」
「ホントに?すごいわ〜!そっか村雨くんって下の名前が律だから、りち。違う読み方をしたってことね。」
納得したように頷く英子。
「千絃よく、村雨くんのこと、りち、って呼んでるし。村雨くんは、千絃のこと、ちづって呼んでるよね。」
「確かに。」
密かに2人で密談している。
「あ!もしかして、この前のテスト終わり、2人が喋ってたの、このことじゃない?」
と英子が風奏にスマホの検索画面を見せた。
「えっと、、。『お待たせしました!新曲リリースですッ!テスト期間で忙しくて、予定より遅くなってしまいました!すみません!お楽しみ下さい。“ i want to listen to your voice ”』あ、本当だね。あの時話してたのって、やっと新曲がリリースできるってことだったんだ。、、すごい。普通に動画再生回数、100万超えてる。」
「あの2人、すごいわね。雲の上の存在っていうか。あたし、追いつけるかな?、、うんん。こんなこと言ったらダメだよね。」
自嘲気味に呟いた。
「私も。2人が遠く感じちゃう。でも、、そうやって活躍して、みんなに笑顔を届ける2人、ホント尊敬しかないよね。嬉しくもある。」
「うん。そうね!」
笑顔で頷きあった。
「あたし、村雨くんのギター、生で聴きたいな。」
「千絃の歌、綺麗で、すごかったな、、。」
「え?生で聴いたの?」
「うん、歌ってくれた。」
嬉しそうに風奏が微笑んだ。
「そう、、やっぱり、風奏って、、。」
「うん?なに?」
「、、いや、やっぱりいいわ。」
英子は首を振り、言葉を濁した。
放課後。
風奏は千絃のもとに行った。
今日は珍しく朝から授業に参加していなかった。昼休みにもいなかったが、律によると学校に来てはいるらしい。最近はサボり癖が治ってきたと思っていた風奏だったが、やっぱり、という感想を持った。
「千絃ー?いるんでしょー?」
風奏は屋上へ向けて声をかけた。音楽室にもいないから、屋上しかないと思い、叫んだのだった。
でも、返事は返ってこなかった。
仕方がない。登るか、、。と風奏は決意して、屋上へ登る梯子に足を掛けた。
「怖ッ!」
壁を登る形になっているから、身を乗り出すことになる。思わず悲鳴が出る風奏。
身震いしながら少しずつ登った。
「やっと、登れた。」
フーっと息を吐き、屋上を見渡した。
「千絃ー!いるんでしょ?」
返事がない。
「千絃ー?」
本当にいないのだろうか。戸惑い見上げると、横たわる足が見えた。
「いた。」
千絃は屋上へ登る階段のコンクリートの屋根の上に寝転んでいた。
「この梯子、登る必要なかったじゃん!」
階段の存在を知らなかった風奏は思わず叫ぶ。
どうやって彼処へ登ったのだろうと思って風奏は見回すと、壁に梯子があった。また梯子か、、。と呆れながら風奏は登った。
千絃は寝転んで、目を閉じていた。
「千絃!!」
風奏は目を閉じている千絃に、叫んだ。
「うわッ!?」
驚いたように起き上がり左右を見た。
「授業にも参加しないで、寝てたの?、、。起こしちゃってごめんね。」
一応謝る風奏。
「あ、、。あぁ、、。」
「どうしたの?」
いつもの威勢は何処へ行ったのか、放心状態で頷いた。
「な、、なんでもねぇよ、、。」
力なく言う。
「それならいいけど、、。」
風奏は深くは訊かなかった。
「そんで、なんだよ?」
いきなりいつもの威勢に戻った。
「え、、?あ、あぁ。この前のお礼。言いにきた。あの時、私の話を聴いてくれて、ありがとう。背中を押してくれてありがとう。もし、千絃がいなかったら、私、一歩踏み出せなかったと思う。だから、ありがと!」
キラキラした笑顔を見せた。
「、、お前、なんか変わったな。」
「え?そう?」
「あぁ。いっつも謝ってばっかだったのに、今度はありがとうばっか言うようになった。」
「千絃が、いろんなこと、気づかせてくれたんだよ。」
「ッ!?」
「ありがと。」
「、、俺、なんにもしてねぇよ。」
驚いたように目を見開けながら言った。
「うんん。千絃のおかげだよ。私、英子のことちゃんと知れてないって気づけたし。それになにより、千絃の言葉に助けられたんだ。本当にありがと。」
「、、おう。」
風奏は景色を眺めながら座り込んだ。
千絃は横目で風奏を見つめたあと、風奏の後ろに座った。2人は背中合わせになった。
「千絃?」
振り向こうとした途端。
「黙って前向いとけ。」
千絃は鋭く言い放った。隣の方が喋りやすいのに、、。しかも、喧嘩してるみたいじゃん、、。と思いながら風奏は空を眺めた。真っ青な綺麗な空を。
その時。
千絃の歌が、聴こえた。
聴いたことない曲だった。しかも、英語で意味がよくわからない。
でも、すごく綺麗な曲だと風奏は感じた。
哀しくて、でも優しくて、包み込まれてしまうような、そんな雰囲気の曲だった。
ずっと聴いていたい、、。と思わせるような曲だった。
息を呑んで風奏は聴いていた。
「俺の、、デビュー曲。」
歌い終わった千絃は短く言った。
「曲名は?」
「Night Melody」
「Night、、Melody、、。いい曲だね。」
感動で涙ぐんで言った。
「これが、、、千絃の、音なんだね。」
風奏は千絃にもたれかかった。それに応えるように千絃も、もたれかかった。後頭部がコツンと当たる。
「千絃のおかげだよ。」
「あん?」
「千絃のおかげで、自分に自信が持てた。ピアノも、弾けるようになった。ありがと。」
呟くように風奏は言った。
少しずつだけど、千絃のことが、わかってきた風奏だった。恥ずかしがり屋だけど、芯は強くて、真っ直ぐ。歌で、みんなに勇気を与えることができる人。感動を与えることができる人。
このまま、時が止まって、ずっと、、、ずっと、、千絃と、いたい。勇気を与えてくる、私を変えてくれた、千絃と、いたい。
風奏は、そう、2人を照らし眺める青空に願った。
でも、、。
──でも、、それが、すぐに叶わなくなることだって、わかるなんて思わなかった。
ずっと、、永遠に、、続いて欲しかった、、。
風奏は、まだ知らなかった。
永遠に、続くと思っていた幸せな時間が、終わってしまうことを。楽しいことには、いつか、終わりが来てしまうことを。
でも、永遠に、続いて欲しかった。