私は、幼い頃から思ったことを考えなしに、すぐに口に出してしまう子だった。自分がすごいと思ったことはすごい!とハッキリ言う正直な子だった。
そんな私には、親友がいた。
家が隣同士だった、同じ歳の女の子。彼女は運動神経が良く、将来はプロサッカー選手になる!と豪語するような活発な子。それを私はカッコイイと思った。夢を堂々と語れる彼女に憧れていた。
だから、『すごい!なれるよ!カッコイイ!』と応援していた。
素直で、思い込みの激しい性格だった私は、親友がプロサッカー選手になることは当然だ。そう思っていた。
そして、私たちは成長し、中学3年生になった。
「進路、どうするの?」
私が訊くと、
「まだ迷ってて。」
と気まずそうに目を逸らした。
「え?ヒナ、サッカーじゃないの?ヒナならできるよ!私が保証するって。昔から言ってたじゃん!夢でしょ!」
「うん、、。でも、大変そう、なんだよね。」
と小さく呟いた。
その日はその会話で終わった。
次の日。学校からの帰り道だった。
「高橋くんは絵の道を進むんだって。森ちゃんは、勉強を頑張りたいから、難関校だって。私は砦ヶ丘かな。家からも近いし、行きやすそう。」
「そう、、。」
「ヒナはまだだったよね。ゆっくり決めたらいいよ。私は応援してるからさ。テレビで報道される日が来るかもよ。サッカー日本だい」
「やめて!」
私の声を遮って金切り声をあげた。耳を押さえて、震えている。
「え、、?」
「そういうの、やめて。私、わかったの。現実は、そう甘くないって。」
「でも、、」
「だからやめてって、無責任なんだよ。私が保証するって言って、言葉だけじゃん。口先ばっかで、なんにも、、わかってない!そんな言葉の、何処に保証能力があるの?ないじゃん!」
彼女はなにかがはち切れるように怒りに任せて叫んでいた。
「でも、でも、ずっと、夢って、、言ってたでしょ?」
「あれは、、風奏が応援してくれてるのに、辞めるなんて、申し訳ないって思ってたから。だけど、、私もう、限界なの、、。」
力なく彼女はそう言うと、
「ごめんね。」
と言ってかけだした。
「え?、、ヒナ!」
駆け出した先にあるのは、、急な階段。
階段のところで、彼女の姿が消えた。
瞬間。
下の方で、くぐもった声が聴こえた。
「ヒナ?、、ヒナ!?」
やっとのことで追いついた私を待っていたのは、階段の下に倒れているヒナだった。
「嘘、、誰か、誰か!」
私は必死に助けを求めた。
そのあと、彼女は救急車で運ばれた。
彼女に付き添って病院へ行ったが、彼女の両親になんと言えばいいか、わからなかった。
だから、みたまんま、正直にそのまま伝えた。
進路の話をしていたら、喧嘩のようなものになってしまい、怒ってかけだした彼女は階段で落ちてしまった。と。
「すみませんでした。」
2人に頭を下げて、そのまま帰った。
数日後、お見舞いに行った。
「帰って。」
行った瞬間、そう言われた。
「なんで?大丈夫かなって、心配だったんだよ?」
彼女は幸い意識は戻っていた。喋れる状態だが、重症なのは変わりない。
「あんたのせい、、。全部、あんたのせい。帰って。あんたの顔、一生見たくない。」
「そんな、、。私たち、親友でしょ?」
「そんな仲な訳ない!そんなのじゃないって、あんたもわかってるでしょ?私、あんたのこと大っ嫌い。」
と言うと、ベッドに潜り込んだ。
「そんな、、。」
しばらく白い床を見つめていた私。
ふと、顔をあげた。
「今まで、本当にごめんなさい。辛い、、思いをさせてしまって。本当にごめんなさい。そして、ありがとう。私は、あなたと出会えて、よかった。出会ってくれてありがとう。」
頬に伝った涙を拭った。
「今まで、ありがと。さよなら。」
伝えたいことは全部伝えた。
もう、思い残すことは、ない。私が悪いってわかってるから。全部悪いってわかってるから。
あの階段から落ちたのは、不幸な事故なんかじゃない。
私が、、、この、私が、彼女を追い詰めていたから。自殺しようとしていたに違いない。
あの階段はヒナの家とは逆方向。しかも、私は見てしまった。目を瞑って、階段の上から飛び降りたことを。
でも、私は自分の胸に仕舞い込んだ。そして、ヒナのために見なかったことにしよう。ヒナのために、忘れてしまおう。
そう思った。
私が全て、悪いのだから。
それから、彼女は学校に来ることはなかった。卒業式も、出席していなかった。
私に、絶対に会いたくないんだと思った。
そして、彼女は足に後遺症が残り、サッカーができない体になった、と聞いた。
サッカーをできなくするために飛び降りたのかな、とも私は思った。
サッカーという、ヒナにとっては呪いの言葉から、解放されるために。
あれから、彼女に会っていない。だから、真相はわからない。わからない方がいいんだ。
私が、全て、悪いのだから。
そして、絶対に、ヒナとは会わない方がいいんだ。
それが、唯一の、私にできる、最大の償いだ。と考えたから。
だから、、会わない。いや、、会えない、、。
だから、全て忘れようと誓った。
ヒナとの思い出、全てを、、。
そして、もう、誰かを傷つけないようにするために、自分の気持ちは押し殺して生きていく。そう決めた。