千絃は頬に流れた涙を手の甲で拭いた。
空はもうすっかり明けている。晴天の空を見上げる。
「ごめん、、。風奏。俺、心の整理できた、とか言っておきながら、涙、止まんねぇや。」
今書いた手紙に、何粒もの雫が落ちる。手紙に、染み渡る。ペンの字が滲んだ。
慌てて千絃は、鞄から瓶を取り出した。瓶の中に、手紙を筒状にして入れる。しっかりとコルクを閉める。
目を瞑り、瓶を両手で包み込んだ。
しばらくして、ズボンについた砂を払いながら立ち上がった。
波の音が響いている。絶え間なく、響いている。
ゆっくりと砂浜を歩く。
波に打ち上げられた貝殻たちの、絨毯の上を。
「そういえば、風奏。俺と一緒に海に来た時、言ってたよな。貝殻ってこんなに小さくて、儚いのに、、綺麗で、私に感動を与えてくれる。そんな貝殻みたいに、この世からいなくなっても、人を感動させられるような人になりたい。って。」
ふと立ち止まり、しゃがみ込む。
オレンジ色から白色へグラデーションがかかっている貝殻を見つけた。
「風奏。風奏の残した、風奏の音は、今でも人を感動させてるぞ。この、貝殻みたいに。」
その貝殻を拾い、砂をはらう。
手のひらに乗せ、愛おしそうに眺める。
コルクを閉じた瓶をもう一度開けて、その中に貝殻を入れた。
カランと音をたてる。
「風奏に似合いそうな、貝殻だな。」
千絃は立ち上がる。
そして、防波堤の上を歩き始めた。
「walking in the night 一緒に奏でただろ?最後のデートの時。それ、録音してたの覚えてる?あのあと、りちのギターも合わせて、カバー曲として発表したんだ。風奏の音、たくさんの人に、聴いてもらいたかったから。風奏のピアノ、たくさんの人に聴いてもらえたぜ。今でもたくさんの人を感動させてる。、、もちろん、俺にも、希望を、与え続けてるよ。やっぱり、風奏の音、最高だな。」
防波堤の端まで歩く。
そして、海に足を投げ出すように腰掛けた。
「風奏。手紙、書いたから、読んで、、。」
瓶を空にかざし、眺める。
便箋と綺麗な貝殻の入った、瓶。
そっと海へ、その瓶を放った。
ぷかぷかと海に浮かぶ。波によって揺れ動いている。
「風奏に、届きますように、、。」
海に祈った。風奏にこの思いが届いてくれるように、祈った。
「風奏。謝らないと、いけないことが、ある。高1の時、会えねぇとか、会いたくねぇとか、、大っ嫌いとか言って、ごめん。言霊ってあるじゃん?あのせいで、風奏に本当に会えなくてなっちゃったのかなって思ったら、、。ホント、、悔いても、悔いても、、悔やみきれねぇ、、本当に」
──千絃、そんなことないよ。
「、、?」
──私を傷つけたと思ってる分以上に、それ以上に、たくさんのものを、千絃はくれたんだよ。たくさんの幸せを、私は千絃からもらったんだよ。
「え、、?」
──幸せをもう、十分、十分すぎるくらいもらったよ。だから、千絃が悔やむ必要なんて、ない。
「、、ッ!?」
──ありがと、千絃。そして、、約束、守り続けてくれて。本当にありがとう。大好きだよ、、。
「風奏?」
潮風が吹いた。
一瞬、千絃は風奏が見えたような気がした。
隣にいてくれている気がした。
大好きな、風奏の笑顔を見られたような、気がした。
「風奏、、。風奏、音を希望に変えてくれて、ありがとう。俺に、ずっと、希望を与え続けてくれて、ありがとう。伝えたいことを、全然、伝えられない、こんな俺を大好きになってくれてありがとう。後悔とか、謝りたいこととかいっぱい、あるけど、本当に風奏のことが、、大好き。、、もう、会えない君に、出会えて、、よかった。」
千絃は、手を目元に持っていく。眉間に皺を寄せ、我慢するが、もう一度、涙が頬を伝ってしまう。
さっきよりも強く、潮風が吹いた。潮の香りが漂う。
千絃は、風奏が応えてくれたように、感じた。
──私も、君に出会えて、よかったよ、、。
「大好きな風奏へ、たくさんの想いを込めて、みんなで歌を作ったから、聴いてほしい。『君に送るレクイエム』」
千絃は、風奏に歌を歌い始めた。
みんなで、風奏に向けて作った、風奏に送る、歌を。
──そんな千絃の隣では、風奏が寄り添って、千絃の歌を聴いていた。千絃の大好きな、明るい笑顔で。目からは涙を流しながら、でも、優しく微笑んでいた。
穏やかな潮風が千絃の頬を撫で、涙を乾かした。
千絃は、風奏への歌を、奏で続けた。
そして、これからも、、、。
「だから奏で続ける、君への希望歌(レクイエム)を───」
───了
空はもうすっかり明けている。晴天の空を見上げる。
「ごめん、、。風奏。俺、心の整理できた、とか言っておきながら、涙、止まんねぇや。」
今書いた手紙に、何粒もの雫が落ちる。手紙に、染み渡る。ペンの字が滲んだ。
慌てて千絃は、鞄から瓶を取り出した。瓶の中に、手紙を筒状にして入れる。しっかりとコルクを閉める。
目を瞑り、瓶を両手で包み込んだ。
しばらくして、ズボンについた砂を払いながら立ち上がった。
波の音が響いている。絶え間なく、響いている。
ゆっくりと砂浜を歩く。
波に打ち上げられた貝殻たちの、絨毯の上を。
「そういえば、風奏。俺と一緒に海に来た時、言ってたよな。貝殻ってこんなに小さくて、儚いのに、、綺麗で、私に感動を与えてくれる。そんな貝殻みたいに、この世からいなくなっても、人を感動させられるような人になりたい。って。」
ふと立ち止まり、しゃがみ込む。
オレンジ色から白色へグラデーションがかかっている貝殻を見つけた。
「風奏。風奏の残した、風奏の音は、今でも人を感動させてるぞ。この、貝殻みたいに。」
その貝殻を拾い、砂をはらう。
手のひらに乗せ、愛おしそうに眺める。
コルクを閉じた瓶をもう一度開けて、その中に貝殻を入れた。
カランと音をたてる。
「風奏に似合いそうな、貝殻だな。」
千絃は立ち上がる。
そして、防波堤の上を歩き始めた。
「walking in the night 一緒に奏でただろ?最後のデートの時。それ、録音してたの覚えてる?あのあと、りちのギターも合わせて、カバー曲として発表したんだ。風奏の音、たくさんの人に、聴いてもらいたかったから。風奏のピアノ、たくさんの人に聴いてもらえたぜ。今でもたくさんの人を感動させてる。、、もちろん、俺にも、希望を、与え続けてるよ。やっぱり、風奏の音、最高だな。」
防波堤の端まで歩く。
そして、海に足を投げ出すように腰掛けた。
「風奏。手紙、書いたから、読んで、、。」
瓶を空にかざし、眺める。
便箋と綺麗な貝殻の入った、瓶。
そっと海へ、その瓶を放った。
ぷかぷかと海に浮かぶ。波によって揺れ動いている。
「風奏に、届きますように、、。」
海に祈った。風奏にこの思いが届いてくれるように、祈った。
「風奏。謝らないと、いけないことが、ある。高1の時、会えねぇとか、会いたくねぇとか、、大っ嫌いとか言って、ごめん。言霊ってあるじゃん?あのせいで、風奏に本当に会えなくてなっちゃったのかなって思ったら、、。ホント、、悔いても、悔いても、、悔やみきれねぇ、、本当に」
──千絃、そんなことないよ。
「、、?」
──私を傷つけたと思ってる分以上に、それ以上に、たくさんのものを、千絃はくれたんだよ。たくさんの幸せを、私は千絃からもらったんだよ。
「え、、?」
──幸せをもう、十分、十分すぎるくらいもらったよ。だから、千絃が悔やむ必要なんて、ない。
「、、ッ!?」
──ありがと、千絃。そして、、約束、守り続けてくれて。本当にありがとう。大好きだよ、、。
「風奏?」
潮風が吹いた。
一瞬、千絃は風奏が見えたような気がした。
隣にいてくれている気がした。
大好きな、風奏の笑顔を見られたような、気がした。
「風奏、、。風奏、音を希望に変えてくれて、ありがとう。俺に、ずっと、希望を与え続けてくれて、ありがとう。伝えたいことを、全然、伝えられない、こんな俺を大好きになってくれてありがとう。後悔とか、謝りたいこととかいっぱい、あるけど、本当に風奏のことが、、大好き。、、もう、会えない君に、出会えて、、よかった。」
千絃は、手を目元に持っていく。眉間に皺を寄せ、我慢するが、もう一度、涙が頬を伝ってしまう。
さっきよりも強く、潮風が吹いた。潮の香りが漂う。
千絃は、風奏が応えてくれたように、感じた。
──私も、君に出会えて、よかったよ、、。
「大好きな風奏へ、たくさんの想いを込めて、みんなで歌を作ったから、聴いてほしい。『君に送るレクイエム』」
千絃は、風奏に歌を歌い始めた。
みんなで、風奏に向けて作った、風奏に送る、歌を。
──そんな千絃の隣では、風奏が寄り添って、千絃の歌を聴いていた。千絃の大好きな、明るい笑顔で。目からは涙を流しながら、でも、優しく微笑んでいた。
穏やかな潮風が千絃の頬を撫で、涙を乾かした。
千絃は、風奏への歌を、奏で続けた。
そして、これからも、、、。
「だから奏で続ける、君への希望歌(レクイエム)を───」
───了