中学の頃、俺はいじめられていた。
原因はわからない。ただ単に俺が嫌いなだけだったかもしれない。それとも、俺が、そいつをむかつかせるようなことをしたのかもしれない。
そのイジメは、中学3年生の頃から始まった。
最初は、周りの男子から、陰口を言われるだけだった。でも、次第にヒートアップしていった。暴力も振るわれるし、ものがなくなることもしょっちゅう続いた。
最終的には、金品を集られた。
要は、イジメ防止シートのような、調査票に書かれる、イジメを全てされた。
先生に言っても、どうせなにも変わらない。今の現状も先生は把握できていないのだから。
先生が悪いわけじゃない。
先生のいないところで、いじめられていたからだ。しかも、リーダー格の男子は、先生の前では優等生を演じているからだ。イジメをしているなんてあり得ないというだろう。
そんな俺にも、心を許せる相手がいた。
親友だった。彼だけは、俺に唯一話しかけてくれた。
でも、ある日を境にその親友が学校に来なくなった。
本当は、風邪をひいてしまい、休んでいた。しかも長引いてしまった。ということをあとから俺は知ったのだが、、。
あぁ、、。裏切られた。って最初思ってしまった。
心が粉々になった。もういいや、って思った。すべてが、もう、どうでも良くなった。
いじめから逃げるため、俺は橋へ向かった。でも、いざ橋の下を見たら、怖くなった。でも、もう終わりにしたい。でも、怖い。を繰り返した。
その時。
いきなり誰かに手を掴まれ引き戻された。
「おい、なにしてるんだ?危ないぞ。」
「離せ!なんで邪魔すんだ!俺、もう嫌なんだよ。もう、逃げてぇんだよ。」
「本当にそうしたいのなら、もう飛び降りてるだろ?なにがあったか、詳しく聞かせてみろ。」
俺を救ってくれたのは、男口調の若い女性だった。短い髪にスッと切れ長の目。クールな印象を抱かせた。
けれど首には桜のネックレスをしていた。対照的な可愛らしさが、印象的だった。
その女性は川原へ俺を連れて行き、俺の話を黙って聴いた。
「それで、死のうとしたのか?」
「悪いかよ、、。」
「あぁ、悪い。君の命がもったいない。」
「は?」
「そんな奴らのために死ぬなんて、馬鹿げてる。君をいじめてる、最低な奴らのために死を選ぶなんて、本当に馬鹿げてると思わないか?奴らを見返すために生きた方が、よっぽどいい。私はそう思うが?」
女性が微笑んだ。
「ま、私だって一度、命を断とうとした人間だ。だから、こんなこと言えない人間なんだけどね。」
「え?」
「愛する人が死んだんだ。」
静かに言った。
「本当に、、?」
俺は言葉を詰まらせた。
「あぁ。だから、後を追おうとした。でも、できなかった。彼の残してくれたものがあったから。」
「のこしてくれた、、もの?」
俺は気になって訊いた。
にこりと微笑みこう言った。
「小説、だよ。」
「え!?小説?何処が助けてくれたわけ?ただの紙切れじゃねぇか。」
俺は思わずそう言っていた。
「紙切れ、、ふふ、、ははは!ただの紙切れじゃないぞ。作者が、ただの紙に、物語という息を吹き込んだものだ。」
俺のただの紙切れという言葉に吹き出しながら彼女は言い返した。
「と言っても、彼の物語以外読んだことはないが。」
さらっと彼女は告白した。
「その小説は、彼が死ぬ前に私に渡してきたものだった。彼は、ただの会社勤めのサラリーマンだったけど、趣味で書いていたんだ。やっと完成した、彼の最初で最後の物語は、私の心を救ってくれた。手書きの原稿の形でしか残っていないが、一度、君に読んでもらいたい。絶対に君の心を救ってくれるよ。」
優しく、彼女は語った。
「本当に、、?俺の心が、、救われるかな?」
「今、読むか?」
「え?あるのか?」
食い気味に反応した俺に微笑みながら鞄を探る。
「形見でもあるからな、、。肌身離さず持ってるんだ。」
原稿用紙を取り出し、指先で撫でながら言った。
「どうぞ。」
と俺に渡してきた。
「、、ありがとう。」
俺は早速読み始めた。
活字を読むなんて、絵本以来だったが、その物語は、すうっと俺の中に入っていった。
すごく、綺麗、、。
心が温かくなった。
繊細に、一つ一つの言葉が描かれていて、優しい情景が浮かんでくる。優しい言葉で満ちている。
この本は、1人の少女が大人の女性として、成長し、夢を追いかける姿が描かれていた。
生きることの大切さを、訴えているような物語だった。
「泣きたい時は泣けよ。少年。」
彼女のその言葉で俺は涙を流していることに気がついた。
そして、どんどん溢れてくる。
心が洗い流されているような気分になった。
俺は、その物語と、彼女のおかげで、救われた。
「ありがとう、、。」
この言葉で、俺が変わったことに彼女は気付いたようだった。
「君にやるよ、それ。」
原稿用紙を指さして言った。
「え?でも、形見なんだろ?」
「いや、いいんだ。もう十分、守ってもらった。次は君が守ってもらう番だよ。それに、君が持っていた方がいい。」
笑顔で言った。
「ありがとう。」
俺は、素直にもらうことにした。
「俺は、深海弦矢。あなたは?」
ふと名前を聞いていなかったことに気づいた。
「みんなからは桜(さくら)、と呼ばれている。」
「桜さん。」
「あぁ。そして彼の名前は、松野直樹(まつのなおき)。良かったら、覚えておいてあげてくれ。」
「うんん、、一生、忘れない。」
俺の言葉に桜さんは息を呑んだのがわかった。
「ありがとな。少年。元気でな。」
「桜さんも、お元気で。」
桜さんは目に涙を浮かべながら手を振って去って行った。
「泣きたい時は、泣けよ〜!」
後ろ姿に声をかけた。
「うるさいぞ!弦矢!」
振り向いて、桜さんは答えてくれた。
俺は桜さんに手を振り続けた。
「たぶん、桜さんと、直樹さんの物語に出会わなければ、いつか心が折れて、自分から逃げてた。今生きてるのは、あの出会いがあったからだ。」
弦矢は過去の全てを伝えた。
「弦矢も、、話してくれて、ありがとう。」
「うんん。」
弦矢は、そう言うと、妃詩の右手を取った。
「へ!?」
「俺さ、絶対に、妃詩の手を離さないから。この世界に繋ぎ止める役割、するから。」
真剣に、真っ直ぐ、妃詩を見つめた。
「私も。絶対にこの手を離さない。」
紗楽も弦矢にならい、妃詩の左手を取る。
「俺、直樹さんの物語で救われた。だから、俺も、物語で救える人になりたいと思った。だから、物語を書いてるんだ。」
「う、うん。」
2人の手の温もりを感じながら、相槌を打つ。
「妃詩に、俺の物語、読んでほしいって今思った。絶対に救ってみせるから。死のうと思わせないような、物語を、死なないでよかったって、思えるような物語を書くから。」
「ヒナちゃんは、もう大丈夫。私たちがいるから。大丈夫だよ。」
「うん、、。」
2人の気持ちが、純粋に嬉しかった。
生きる力をくれた。それがなによりも嬉しかった。
「弦矢、紗楽、ありがと。2人がいるから、私、もっと生きたいって思った。弦矢の物語が読みたいって思った。私が生きる意味、、はまだよくわからないけど、いずれ、絶対に見つける。生きる理由っていうのかな?それは、2人なのかもしれない。」
少し頬を赤らめて話す。
「「っ!?」」
「私、親友が、隣からいなくなって、夢も無くなって。全て失くしちゃった。そんな失くしたものを、追いかけることができなくなかった。大きな大きな後悔で、動けなかったから。こんな私には、生きる資格なんてないって思って、前に進めなかった。でも、こうやって、一歩踏み出したいって思った。そのための、、一歩踏み出すための勇気をくれたのは、弦矢、紗楽、、2人だよ。」
「「え、、?」」
2人は驚いたように目を見開く。
「私、詩、描いてみる。」
妃詩は、決意を口に出した。
「弦矢が貸してくれた、詩集、読んでみたの。ものすごく、私の心に響いた。私の心が踊った。涙が自然に流れるくらい、感動した。詩ってこんなにもすごいものだったんだって気づいた。私にも描いてみたいって、思った。」
ぽつり、ぽつりと心の中の言葉を声に表す。
優しい眼差しで、2人はそんな妃詩を見つめる。
「でも、、いざ、描いてみようって思ったら、ものすごく怖くてさ。一歩踏み出すことが怖かったんだ。だけど、今、隣には、弦矢と、紗楽がいるから。一歩踏み出すのが、怖くない。だから、一歩踏み出してみたい。」
前を向き、しっかりと2人に思いを伝えた。
「ヒナちゃん、、。」
「妃詩、、。」
喜びと、感動と、嬉しさの混じった明るい顔だった。
「一生、友達でいようね!」
「ずっと、隣にいるから!」
「うん!」
妃詩は、嬉しそうに笑った。
3人の声が響いた。
日の入りが始まった太陽が水面を照らし、光り輝いていた。妃詩を励ますように。これからの道を照らすように。
原因はわからない。ただ単に俺が嫌いなだけだったかもしれない。それとも、俺が、そいつをむかつかせるようなことをしたのかもしれない。
そのイジメは、中学3年生の頃から始まった。
最初は、周りの男子から、陰口を言われるだけだった。でも、次第にヒートアップしていった。暴力も振るわれるし、ものがなくなることもしょっちゅう続いた。
最終的には、金品を集られた。
要は、イジメ防止シートのような、調査票に書かれる、イジメを全てされた。
先生に言っても、どうせなにも変わらない。今の現状も先生は把握できていないのだから。
先生が悪いわけじゃない。
先生のいないところで、いじめられていたからだ。しかも、リーダー格の男子は、先生の前では優等生を演じているからだ。イジメをしているなんてあり得ないというだろう。
そんな俺にも、心を許せる相手がいた。
親友だった。彼だけは、俺に唯一話しかけてくれた。
でも、ある日を境にその親友が学校に来なくなった。
本当は、風邪をひいてしまい、休んでいた。しかも長引いてしまった。ということをあとから俺は知ったのだが、、。
あぁ、、。裏切られた。って最初思ってしまった。
心が粉々になった。もういいや、って思った。すべてが、もう、どうでも良くなった。
いじめから逃げるため、俺は橋へ向かった。でも、いざ橋の下を見たら、怖くなった。でも、もう終わりにしたい。でも、怖い。を繰り返した。
その時。
いきなり誰かに手を掴まれ引き戻された。
「おい、なにしてるんだ?危ないぞ。」
「離せ!なんで邪魔すんだ!俺、もう嫌なんだよ。もう、逃げてぇんだよ。」
「本当にそうしたいのなら、もう飛び降りてるだろ?なにがあったか、詳しく聞かせてみろ。」
俺を救ってくれたのは、男口調の若い女性だった。短い髪にスッと切れ長の目。クールな印象を抱かせた。
けれど首には桜のネックレスをしていた。対照的な可愛らしさが、印象的だった。
その女性は川原へ俺を連れて行き、俺の話を黙って聴いた。
「それで、死のうとしたのか?」
「悪いかよ、、。」
「あぁ、悪い。君の命がもったいない。」
「は?」
「そんな奴らのために死ぬなんて、馬鹿げてる。君をいじめてる、最低な奴らのために死を選ぶなんて、本当に馬鹿げてると思わないか?奴らを見返すために生きた方が、よっぽどいい。私はそう思うが?」
女性が微笑んだ。
「ま、私だって一度、命を断とうとした人間だ。だから、こんなこと言えない人間なんだけどね。」
「え?」
「愛する人が死んだんだ。」
静かに言った。
「本当に、、?」
俺は言葉を詰まらせた。
「あぁ。だから、後を追おうとした。でも、できなかった。彼の残してくれたものがあったから。」
「のこしてくれた、、もの?」
俺は気になって訊いた。
にこりと微笑みこう言った。
「小説、だよ。」
「え!?小説?何処が助けてくれたわけ?ただの紙切れじゃねぇか。」
俺は思わずそう言っていた。
「紙切れ、、ふふ、、ははは!ただの紙切れじゃないぞ。作者が、ただの紙に、物語という息を吹き込んだものだ。」
俺のただの紙切れという言葉に吹き出しながら彼女は言い返した。
「と言っても、彼の物語以外読んだことはないが。」
さらっと彼女は告白した。
「その小説は、彼が死ぬ前に私に渡してきたものだった。彼は、ただの会社勤めのサラリーマンだったけど、趣味で書いていたんだ。やっと完成した、彼の最初で最後の物語は、私の心を救ってくれた。手書きの原稿の形でしか残っていないが、一度、君に読んでもらいたい。絶対に君の心を救ってくれるよ。」
優しく、彼女は語った。
「本当に、、?俺の心が、、救われるかな?」
「今、読むか?」
「え?あるのか?」
食い気味に反応した俺に微笑みながら鞄を探る。
「形見でもあるからな、、。肌身離さず持ってるんだ。」
原稿用紙を取り出し、指先で撫でながら言った。
「どうぞ。」
と俺に渡してきた。
「、、ありがとう。」
俺は早速読み始めた。
活字を読むなんて、絵本以来だったが、その物語は、すうっと俺の中に入っていった。
すごく、綺麗、、。
心が温かくなった。
繊細に、一つ一つの言葉が描かれていて、優しい情景が浮かんでくる。優しい言葉で満ちている。
この本は、1人の少女が大人の女性として、成長し、夢を追いかける姿が描かれていた。
生きることの大切さを、訴えているような物語だった。
「泣きたい時は泣けよ。少年。」
彼女のその言葉で俺は涙を流していることに気がついた。
そして、どんどん溢れてくる。
心が洗い流されているような気分になった。
俺は、その物語と、彼女のおかげで、救われた。
「ありがとう、、。」
この言葉で、俺が変わったことに彼女は気付いたようだった。
「君にやるよ、それ。」
原稿用紙を指さして言った。
「え?でも、形見なんだろ?」
「いや、いいんだ。もう十分、守ってもらった。次は君が守ってもらう番だよ。それに、君が持っていた方がいい。」
笑顔で言った。
「ありがとう。」
俺は、素直にもらうことにした。
「俺は、深海弦矢。あなたは?」
ふと名前を聞いていなかったことに気づいた。
「みんなからは桜(さくら)、と呼ばれている。」
「桜さん。」
「あぁ。そして彼の名前は、松野直樹(まつのなおき)。良かったら、覚えておいてあげてくれ。」
「うんん、、一生、忘れない。」
俺の言葉に桜さんは息を呑んだのがわかった。
「ありがとな。少年。元気でな。」
「桜さんも、お元気で。」
桜さんは目に涙を浮かべながら手を振って去って行った。
「泣きたい時は、泣けよ〜!」
後ろ姿に声をかけた。
「うるさいぞ!弦矢!」
振り向いて、桜さんは答えてくれた。
俺は桜さんに手を振り続けた。
「たぶん、桜さんと、直樹さんの物語に出会わなければ、いつか心が折れて、自分から逃げてた。今生きてるのは、あの出会いがあったからだ。」
弦矢は過去の全てを伝えた。
「弦矢も、、話してくれて、ありがとう。」
「うんん。」
弦矢は、そう言うと、妃詩の右手を取った。
「へ!?」
「俺さ、絶対に、妃詩の手を離さないから。この世界に繋ぎ止める役割、するから。」
真剣に、真っ直ぐ、妃詩を見つめた。
「私も。絶対にこの手を離さない。」
紗楽も弦矢にならい、妃詩の左手を取る。
「俺、直樹さんの物語で救われた。だから、俺も、物語で救える人になりたいと思った。だから、物語を書いてるんだ。」
「う、うん。」
2人の手の温もりを感じながら、相槌を打つ。
「妃詩に、俺の物語、読んでほしいって今思った。絶対に救ってみせるから。死のうと思わせないような、物語を、死なないでよかったって、思えるような物語を書くから。」
「ヒナちゃんは、もう大丈夫。私たちがいるから。大丈夫だよ。」
「うん、、。」
2人の気持ちが、純粋に嬉しかった。
生きる力をくれた。それがなによりも嬉しかった。
「弦矢、紗楽、ありがと。2人がいるから、私、もっと生きたいって思った。弦矢の物語が読みたいって思った。私が生きる意味、、はまだよくわからないけど、いずれ、絶対に見つける。生きる理由っていうのかな?それは、2人なのかもしれない。」
少し頬を赤らめて話す。
「「っ!?」」
「私、親友が、隣からいなくなって、夢も無くなって。全て失くしちゃった。そんな失くしたものを、追いかけることができなくなかった。大きな大きな後悔で、動けなかったから。こんな私には、生きる資格なんてないって思って、前に進めなかった。でも、こうやって、一歩踏み出したいって思った。そのための、、一歩踏み出すための勇気をくれたのは、弦矢、紗楽、、2人だよ。」
「「え、、?」」
2人は驚いたように目を見開く。
「私、詩、描いてみる。」
妃詩は、決意を口に出した。
「弦矢が貸してくれた、詩集、読んでみたの。ものすごく、私の心に響いた。私の心が踊った。涙が自然に流れるくらい、感動した。詩ってこんなにもすごいものだったんだって気づいた。私にも描いてみたいって、思った。」
ぽつり、ぽつりと心の中の言葉を声に表す。
優しい眼差しで、2人はそんな妃詩を見つめる。
「でも、、いざ、描いてみようって思ったら、ものすごく怖くてさ。一歩踏み出すことが怖かったんだ。だけど、今、隣には、弦矢と、紗楽がいるから。一歩踏み出すのが、怖くない。だから、一歩踏み出してみたい。」
前を向き、しっかりと2人に思いを伝えた。
「ヒナちゃん、、。」
「妃詩、、。」
喜びと、感動と、嬉しさの混じった明るい顔だった。
「一生、友達でいようね!」
「ずっと、隣にいるから!」
「うん!」
妃詩は、嬉しそうに笑った。
3人の声が響いた。
日の入りが始まった太陽が水面を照らし、光り輝いていた。妃詩を励ますように。これからの道を照らすように。