私は、昔からサッカー選手になりたいという夢があった。
小さい頃から運動が得意で、スポーツの中でサッカーが大好きだったから。
小学生の頃からサッカーを習っていた。
男子とともに習っていたため、やんちゃで、活発な女の子だった。
そんな私には、幼馴染の親友がいた。素直で、心優しい女の子。
その親友も、私も、私がサッカー選手になるという将来を信じて疑わなかった。
けど、中学生になって、自分の実力を知った。
私の中学校のチームでは、私はエースでも、強豪の中学校の人にとっては、ただの中学校のチームの、ただの普通の凡人選手、だったから。強豪な彼女らは、みんな体格にも恵まれて、すごい技術を持っている。周りの環境もいい。
これが、強豪と、凡人の差か、って悟った。自分の実力を思い知った。と同時に、こんな実力で、サッカー選手になりたいとよく豪語できたな、と恥ずかしくなった。
だから、諦めた。高みを目指すのは、もう無理だって思ったから。今から、追いついたって、私には生きづらい、辛いことだけが待ってるって思ったから。
だから、新しい、なにかやりたいことを見つけようと思った。
でも、親友には伝えられなかった。
夢を諦めた。と言えなかった。
小学校から言い続けていた夢を、諦めた、ということが恥ずかしかったから。
小学校からずっと応援してくれたのに、諦める、なんて申し訳なかった。
だから、言えなかった。
でも、それがいけなかった。
それが、私自身を追い詰めたし、彼女自身も傷つけてしまうことになった。

親友は音楽が得意で、幼稚園からピアノを習っていた。
ものすごく上手くて、綺麗な音だなって、子供ながら思っていた。
楽しそうにピアノを奏でる親友が大好きだった。
そして、憧れていた。
風奏に憧れる影響で洋楽に興味を持った。ルイスという歌手が大好きになった。
2人でルイスという歌手のライブにも行った。私は彼女の影響で音楽に興味を持った。一方で彼女は私の影響でルイスが好きになった。と言っていた。
うっすらと、音楽の道もいいな、、。音楽にたずさわる仕事につきたいな、、。と感じていた矢先だった。
中学3年生になり、進路の問題の壁にぶつかった。
親友は、私がサッカー選手になることを、思い込んでいた。いや、信じていた。
だから、あの時もこう言った。
「絶対ヒナは、サッカー選手になれるよ。私が保証する!」
と。
そう言われた時、心に、キリキリとなにかが入ってくるような感覚になった。
「うん。、、でも、大変そうなんだよね。」
小さくそう言った。
その日はそれで終わった。
けど、いつまでも、胸のキリキリは、取れなかった。
そして、その日はやってきた。
「私は応援してるからね。テレビで報道される日が来るかもよ。サッカー日本だいひょ」
「やめて!」
明るく私のことを話す彼女に、私はいつの間にか叫んでいた。
そして、一度開いた口は、閉まってくれなかった。
「そういうの、やめて。私、わかったの。現実はそう甘くないって。」
「でも。」
「だからやめてって、無責任なんだよ。私が保証するって言って、言葉だけじゃん。口先ばっかで、なんにも、、わかってない!そんな言葉の、何処に保証能力があるの?ないじゃん!」
私は、怒りに任せて叫んでいた。胸のキリキリが、限界になった。そして、いつの間にか、爆発していた。
「でも、でも、ずっと、夢って、、言ってたでしょ?」
彼女は私に訴えかけるように、じっと見つめてくる。
「あれは、、風奏が応援してくれてるのに、辞めるなんて、申し訳ないって思ってたから。だけど、、私もう、限界なの、、。」
その視線から逃げるように私は俯いた。
「ごめんね。」
と駆け出した。
なにもかもが嫌になった。自分に当たるはずの言葉を、私は、彼女に向けていた。いつの間にか、彼女を傷つけていた。憧れてた、大好きだった、親友を、この手で、傷つけてしまった。
もう、どうなってもいい。って思った。
全部、全部吐き出したら、私にはなにも残らなかった。
こんな、足がなくなればいいんだ。そうすれば無理だって、思わせられる。
私は、狂ってた。
だから、彼女の目の前で階段から飛び降りた。
目が覚めたら、真っ白な天井が見えた。
「妃詩!なにしてるの、、。どうして、足なんか滑らせるのよ。怪我で済んだけど、打ちどころが悪かったら、命だって、危なかったのよ?」
お母さんの心配そうな声が上からした。
「なにもかもが、無くなっちゃえばよかったのに。」
思わずぼそっと呟いた。
「妃詩!なに言ってるの?」
涙目になってお母さんが私を見る。
「なにもかもが、もう、嫌になったの、、。勉強も、学校も、友達も、家族も、夢も、人生も、なにもかもが、消えてなくなってほしい、、。もう、私には、なにもいらない。そんなもの持つ資格なんてないもん、、。」
「さっきから、なに言ってるの?、、頭打ったから、おかしくなったの?さ、もう、寝なさい。」
私から逃げるようにお母さんは病室を出ていった。
お母さんに言われた通り、私は目を閉じた。

数日後、親友が、お見舞いに病室を訪ねてきた。
「帰って。」
入ってきた瞬間、そう言った。
「なんで?大丈夫かなって、心配だったんだよ。」
彼女は、驚いたように目を見開いて訊いた。
「アンタのせい、、。全部、アンタのせい。帰って。アンタの顔、一生見たくない。」
「そんな、、。私たち、親友でしょ?」
「そんな仲な訳ない。そんなのじゃないって、アンタもわかってるでしょ?私、アンタのこと大っ嫌い。」
と言って、私はベッドに潜り込んだ。
「そんな、、。」
しばらく沈黙が続いた。
ふと、息を吸う音がした。
「今まで、本当にごめんなさい。辛い、、思いをさせてしまって。本当にごめんなさい。そして、ありがとう。私は、あなたと出会えて、よかった。出会ってくれてありがとう。」
声が、聴こえた。親友の、、風奏の声が聴こえた。
私の頬に涙が伝った。
今言ったことは、本心じゃ、、ないから。嘘。全部嘘だ。風奏を、もう、傷つけたくなくて、言った、嘘。
私と関われば、嫌な思いをする。だから、、。
嗚咽の声を必死に抑えた。
拳を握りしめた。
でも、、風奏と一緒にいたい、私がいた。
行かないで、、。心の中で叫んだ。
でも、言えなかった。
そんなこと言う資格なんてないから。
「今まで、ありがと。さよなら。」
それが、私が聴いた、風奏の最後の言葉だった。
病室を出る足音。扉が閉まる音。廊下を歩く足音がした。
それを聴いてから、私は、大声で、泣いた。
「ごめん、、。ごめんなさい。風奏ぁ!!ごめんなさい、、。」
私は泣き叫び続けた。
涙は、、とても苦い味がした。

それから、私の足は障がいが残った。サッカーは、できなくなった。私が、願った通りに、なった。
そして、私のせいで、親友を、傷つけた。
この出来事の後、私は学校に行かなかった。
風奏に会うことなんて、できなかったから。
あれ以来、私は風奏に会っていない。
会わない方が、絶対に、いい。
会わない方が、風奏を傷つけない。
だから、、。
絶対に、会いたくない。
会いたいけど、、。会えない、、。
いや、会わない。
そう決めたから。
それから、母親が壊れる、あの事件が起こった。
この出来事のあと、父親は離婚し、私はこの街に来た。

それから、人と、関わらないで、生きていく。そう決めた。もう二度と、人を傷つけないように。
これが、私の心の中にある大きな、大きな後悔。
悔いても、悔やみきれない、大きな、後悔の正体。

風奏は、なにも悪くない。
私が、全部、悪いのだから。
本当に、全部私が悪いって言いたいのは──


「たぶん、これが、あんたが言ってた、哀しい詩がかける、正体だよ。心の中で、渦めく、大きな後悔。2人に知ってて欲しいって思った。」
「そんなことが、あったんだな。教えてくれてありがとう、妃詩。妃詩の心の底、知れて、嬉しい。な、紗楽。」
「うん、話してくれて、ありがとう。私たちに、知ってほしいって、言ってくれて、なんか、私嬉しい。」
紗楽が明るくが歯を見せて笑った。
「いや、、お礼なんて言われる筋合いなんてないし。」
照れ隠しに横を向いた。
でも、、こうやって、日常を送る中で、ふと、思う。
本当に、こうして、生きていていいのだろうか、と。
生きる意味も、失った、生きる価値もない、私が。
本当に、こんな私が。と。
「俺らが言えるようなことじゃないかもしれないけど、妃詩は、妃詩でいいんだからな。そんなに、思い詰めたら、ダメだぞ。」
「そうだよ。ヒナちゃん。今まで辛くて、辛くて、仕方がなかったんだよね?いろんなこと、1人で抱えて。それを、私もそれを分かち合いたいよ。ヒナちゃんの重いもの、一緒に持ちたい。だから、辛いこと全部吐き出して。私に、吐き出していいからね?」
「もちろん、俺にもな。」
2人は穏やかに微笑んだ。
今まで見た2人の笑顔の中で1番優しい笑顔だった。
言ってくれていることは嬉しかった。
けど、素直に頷けない妃詩がいた。