葛木妃詩(かつらぎひなた)は、学校への道を歩いていた。
道を行く人の足音が聞こえる。話し声が聞こえる。でも、妃詩はそんなすべての音を塞ぎたい気分だった。
自分の左右アンバランスな足音に嫌気がさす、、。下を向いて歩いていると、自分の醜い足が目に入って、目を瞑りたくなる、、。そんなことを毎日考えながら、妃詩は登校していた。
城野高校と書かれた門から校内に入った。
「あ、、。」
ふと、そんな声がした。
反射的に妃詩は、声がした方へ目を向ける。ショートカットの少女がいた。
「忘れ物した、、。」
続けてそう言った。
なんだ、、。内心そう思った。
妃詩は自分自身を指されたのかと勘違いしたのだった。
安堵感を抱き、歩みを進めた。
3–Aと書かれた下駄箱に靴を放り込み、上靴を履く。
「うわっ、、。」
その声に妃詩は肩を上下させる。
「葛木サン、だいじょーぶ?手伝ってあげようか?」
後ろから声をかけられた。
「、、大丈夫。」
短く答える。
「そう?大丈夫には見えないけど、、。」
とそう言い、声を上げて笑いながら去っていった。
「はぁ、、」
小さくため息を吐いた。
彼女は、いわゆる一軍と呼ばれる女子だ。
いつも、妃詩の足を、いじってくる。
障がい者、という言葉を使い、笑ってくる。
こんな足じゃなかったら、、。障がいのある右足を見つめながら妃詩は思った。
「あ、、。」
またしても、その声に反応する。
声を発した人に目を向けると、妃詩の方を見ていた。そして、すぐさま目を逸らした。
妃詩はこの学校で、避けられている。
足に障がいがあるから、、もそうだが、一番の原因は、ある噂、が、広まったから。だ。
それで、今でも好奇な目。嫌悪の目、さまざまな目で見られる。そして、浮いた存在になってしまっている。
黙ってその人から視線を外し、廊下を歩く。右足を引きずる、変な歩き方をしながら。
肩から下げた鞄を握る。そして、反射的に長袖の裾を掴んだ。
あんなこと、しなければ、、。でも、避けられて当然の人間だから、、。仕方がない、、。逃げられない。絶対に。、、いや、逃げられるけど、嫌って言えるけど、言わないんだ。こんな自分は、変われないから、、、。負の感情を無理矢理、心に押し込め、妃詩は教室に入った。
周りの人から視線を合わせないように、そっと移動して、自分の席へついた。
「ふぅ、、。」
やっと、一息つける場所に辿り着いた。
妃詩の唯一のテリトリーで、誰も、この場所を邪魔されない。1人でいれる、落ち着く場所。
妃詩は、深呼吸をし、気分を落ち着かせ、授業に向けて準備をした。
ショートホームルームの後、1限目は国語の授業だった。
「今日は、詩について、考えます。」
と国語の担当教師が黒板に、『詩』と書きながら言う。
「これから3時間かけて、詩を読むんですが、まずは自分で、詩を作ってみてください。」
と授業のお題を提示した。
「ゆっくり考えてみて。授業の最後に、交流をしますので。スタート!」
先生の声と共に、生徒たちは、真剣に詩を考え始めた。
詩、、。どういうことを書けばいいのかわからない妃詩だった。普段から文学というものにさほど興味がないので、全くわからないというように眉間に皺を寄せた。
「こんなの、詩ではない、と、自分では思うかも知れません。でも、詩は、自分の心の声です。間違いなんてないんです。なにを思ってもいいんですから。自分の思ったことを、描いてみて。」
にこやかに先生は言った。
「心の、、声、、。」
思わずつぶやく。
「そう、なんでも思ったことを描いていいの。」
ちょうど先生が妃詩のそばに歩み寄ってきた。
「たとえば、、『私が大好きなもの。それは、学校。なぜなら、大好きな生徒の顔を毎日見ることができるから。毎日授業をすることができるから。』、、とか?」
明るく先生が例を出す。
「それで、詩なんですか?」
妃詩の前の席のショートカットの少女が訊いた。
「なんでも、思ったことを言葉にすれば、詩になるんです。まぁ、詩人さんとかは、もっとすごいものを描いておられるでしょうけど。彼らは色々な、技法を駆使して、言葉で色々なことを表現するんです。本当にいろんなことだから、それ以上言えないけれど。自由に思い、風景、感じたこと、を描くんです。」
「へぇ、、。難しいですね、、。」
顎に手をやりながら少女は考えた。
ふと、妃詩はその少女が、忘れ物した、と朝言っていた少女だと気づいた。
「あ、、。」
思わず一言出てしまった。
「葛木さん、思いついた?」
その少女は妃詩のあげた声を勘違いした。
「え、、えっと、、。思いついたっていうか。断片的に、、だけど。」
「へぇ!いいじゃん!完成した時、交流しよ!」
「う、うん。」
歯を見せながら笑う、屈託のない表情に押され、思わず頷いていた。
やばい、、。交流しようって、約束しちゃった、、。内心慌てた妃詩。
「葛木さん、あんまり進んでないようね。」
横から先生が覗く。
「あ、はい、、。なにを、かいたらいいか、、わからなくて。」
「そんなに考えなくても、今、心にあること、紙の上に吐き出してみたらどう?」
「はぁ、、。なるほど、、。」
吐き出してみる、、。自分の、心を、、。しばらく妃詩は身動きをしずに止まっていた。ふと、思いつき、シャーペンを手に取った。
─もしも、私に、翼があったら。私を空の上まで連れて行ってくれるだろうか。天国という名の空の上へ、、。
と、一度書いて、ハッと頭を上げ、消しゴムですべて消した。
ダメだ、、。こんなこと書いたら、、。頭の中でこの感情を消し去った。
改めてシャーペンを握り締め、一文字一文字、妃詩は、心の中の感情を文字に起こした。
─もしも、翼があったら、私はなにをするだろう。
空の果てまで、行ってみたい。空の旅に出たい。
そうしたら、会えるのだろうか。もう会えない人たちに。私には手の届かない人たちに。
そして、私は、その彼女、彼らに、心の声を話すだろう。心を救ってもらうために。
どうして神様は、幸せになってほしい人に、不幸を与えるの?幸せになってほしい人に、どうして試練を与えるの?と問うだろう。
そして、彼女、彼らは決まってこう言うだろう。
私、僕らは、もう十分幸せをもらったよ。
と。
私も、そう言いたい。
でも、、。でも、、。
私は、彼女、彼らのもとにいけない。いきたくても、いけない。
私はそう思い気づくだろう。
そっか。私は、不幸をもらう分、幸せを、私の大切な人に渡してるんだった。だから、いけないんだ。
と。─
かき進めると、手が自然と動き、詩を描き上げることができた。妃詩は、その詩を少女に渡した。
そして、少女の詩を受け取る。
お互いに読み進めた。
─会いたい人がいる。とてつもなく、会いたい人がいる。
けど、、もう会えない。
だって、空に光る、お星様になってしまったから。
夜空に輝く、素敵な星つぶの一つになってしまったから。
だから、空に光る満点の星たちに、私は祈り続ける。
どうか、幸せでいて。お願いだから、幸せでいて。って。
ここに約束する。─
少女の詩は、短いけれど、妃詩の心を掴むには十分だった。真っ直ぐな言葉に心を打たれた。
「すごい、、。ものすごい、いい詩だね。」
思わず自分から声をかけていた。
「え!?」
少女に目を向けた瞬間、驚きの声を上げた。
少女が、涙を流していたから。
「どうしたの、、?」
小さく問う。
「あ、、えっと。ごめん。」
そう呟いて、少女は妃詩の詩を突き返した。
「こっちこそ、、ごめん。」
机の上に無造作に置いたシャーペンを見つめながら謝った。
人と、関わるんじゃなかった。やっぱり、人と関わったら、お互い傷つくんだ。これ以上関わらない方がいい、、。妃詩は心の中でそう決意した。
「フカミくんの作品、素晴らしいですね。じゃあ、読んでみて。」
先生とフカミと呼ばれた生徒の声を上の空で聴いていた妃詩だった。
道を行く人の足音が聞こえる。話し声が聞こえる。でも、妃詩はそんなすべての音を塞ぎたい気分だった。
自分の左右アンバランスな足音に嫌気がさす、、。下を向いて歩いていると、自分の醜い足が目に入って、目を瞑りたくなる、、。そんなことを毎日考えながら、妃詩は登校していた。
城野高校と書かれた門から校内に入った。
「あ、、。」
ふと、そんな声がした。
反射的に妃詩は、声がした方へ目を向ける。ショートカットの少女がいた。
「忘れ物した、、。」
続けてそう言った。
なんだ、、。内心そう思った。
妃詩は自分自身を指されたのかと勘違いしたのだった。
安堵感を抱き、歩みを進めた。
3–Aと書かれた下駄箱に靴を放り込み、上靴を履く。
「うわっ、、。」
その声に妃詩は肩を上下させる。
「葛木サン、だいじょーぶ?手伝ってあげようか?」
後ろから声をかけられた。
「、、大丈夫。」
短く答える。
「そう?大丈夫には見えないけど、、。」
とそう言い、声を上げて笑いながら去っていった。
「はぁ、、」
小さくため息を吐いた。
彼女は、いわゆる一軍と呼ばれる女子だ。
いつも、妃詩の足を、いじってくる。
障がい者、という言葉を使い、笑ってくる。
こんな足じゃなかったら、、。障がいのある右足を見つめながら妃詩は思った。
「あ、、。」
またしても、その声に反応する。
声を発した人に目を向けると、妃詩の方を見ていた。そして、すぐさま目を逸らした。
妃詩はこの学校で、避けられている。
足に障がいがあるから、、もそうだが、一番の原因は、ある噂、が、広まったから。だ。
それで、今でも好奇な目。嫌悪の目、さまざまな目で見られる。そして、浮いた存在になってしまっている。
黙ってその人から視線を外し、廊下を歩く。右足を引きずる、変な歩き方をしながら。
肩から下げた鞄を握る。そして、反射的に長袖の裾を掴んだ。
あんなこと、しなければ、、。でも、避けられて当然の人間だから、、。仕方がない、、。逃げられない。絶対に。、、いや、逃げられるけど、嫌って言えるけど、言わないんだ。こんな自分は、変われないから、、、。負の感情を無理矢理、心に押し込め、妃詩は教室に入った。
周りの人から視線を合わせないように、そっと移動して、自分の席へついた。
「ふぅ、、。」
やっと、一息つける場所に辿り着いた。
妃詩の唯一のテリトリーで、誰も、この場所を邪魔されない。1人でいれる、落ち着く場所。
妃詩は、深呼吸をし、気分を落ち着かせ、授業に向けて準備をした。
ショートホームルームの後、1限目は国語の授業だった。
「今日は、詩について、考えます。」
と国語の担当教師が黒板に、『詩』と書きながら言う。
「これから3時間かけて、詩を読むんですが、まずは自分で、詩を作ってみてください。」
と授業のお題を提示した。
「ゆっくり考えてみて。授業の最後に、交流をしますので。スタート!」
先生の声と共に、生徒たちは、真剣に詩を考え始めた。
詩、、。どういうことを書けばいいのかわからない妃詩だった。普段から文学というものにさほど興味がないので、全くわからないというように眉間に皺を寄せた。
「こんなの、詩ではない、と、自分では思うかも知れません。でも、詩は、自分の心の声です。間違いなんてないんです。なにを思ってもいいんですから。自分の思ったことを、描いてみて。」
にこやかに先生は言った。
「心の、、声、、。」
思わずつぶやく。
「そう、なんでも思ったことを描いていいの。」
ちょうど先生が妃詩のそばに歩み寄ってきた。
「たとえば、、『私が大好きなもの。それは、学校。なぜなら、大好きな生徒の顔を毎日見ることができるから。毎日授業をすることができるから。』、、とか?」
明るく先生が例を出す。
「それで、詩なんですか?」
妃詩の前の席のショートカットの少女が訊いた。
「なんでも、思ったことを言葉にすれば、詩になるんです。まぁ、詩人さんとかは、もっとすごいものを描いておられるでしょうけど。彼らは色々な、技法を駆使して、言葉で色々なことを表現するんです。本当にいろんなことだから、それ以上言えないけれど。自由に思い、風景、感じたこと、を描くんです。」
「へぇ、、。難しいですね、、。」
顎に手をやりながら少女は考えた。
ふと、妃詩はその少女が、忘れ物した、と朝言っていた少女だと気づいた。
「あ、、。」
思わず一言出てしまった。
「葛木さん、思いついた?」
その少女は妃詩のあげた声を勘違いした。
「え、、えっと、、。思いついたっていうか。断片的に、、だけど。」
「へぇ!いいじゃん!完成した時、交流しよ!」
「う、うん。」
歯を見せながら笑う、屈託のない表情に押され、思わず頷いていた。
やばい、、。交流しようって、約束しちゃった、、。内心慌てた妃詩。
「葛木さん、あんまり進んでないようね。」
横から先生が覗く。
「あ、はい、、。なにを、かいたらいいか、、わからなくて。」
「そんなに考えなくても、今、心にあること、紙の上に吐き出してみたらどう?」
「はぁ、、。なるほど、、。」
吐き出してみる、、。自分の、心を、、。しばらく妃詩は身動きをしずに止まっていた。ふと、思いつき、シャーペンを手に取った。
─もしも、私に、翼があったら。私を空の上まで連れて行ってくれるだろうか。天国という名の空の上へ、、。
と、一度書いて、ハッと頭を上げ、消しゴムですべて消した。
ダメだ、、。こんなこと書いたら、、。頭の中でこの感情を消し去った。
改めてシャーペンを握り締め、一文字一文字、妃詩は、心の中の感情を文字に起こした。
─もしも、翼があったら、私はなにをするだろう。
空の果てまで、行ってみたい。空の旅に出たい。
そうしたら、会えるのだろうか。もう会えない人たちに。私には手の届かない人たちに。
そして、私は、その彼女、彼らに、心の声を話すだろう。心を救ってもらうために。
どうして神様は、幸せになってほしい人に、不幸を与えるの?幸せになってほしい人に、どうして試練を与えるの?と問うだろう。
そして、彼女、彼らは決まってこう言うだろう。
私、僕らは、もう十分幸せをもらったよ。
と。
私も、そう言いたい。
でも、、。でも、、。
私は、彼女、彼らのもとにいけない。いきたくても、いけない。
私はそう思い気づくだろう。
そっか。私は、不幸をもらう分、幸せを、私の大切な人に渡してるんだった。だから、いけないんだ。
と。─
かき進めると、手が自然と動き、詩を描き上げることができた。妃詩は、その詩を少女に渡した。
そして、少女の詩を受け取る。
お互いに読み進めた。
─会いたい人がいる。とてつもなく、会いたい人がいる。
けど、、もう会えない。
だって、空に光る、お星様になってしまったから。
夜空に輝く、素敵な星つぶの一つになってしまったから。
だから、空に光る満点の星たちに、私は祈り続ける。
どうか、幸せでいて。お願いだから、幸せでいて。って。
ここに約束する。─
少女の詩は、短いけれど、妃詩の心を掴むには十分だった。真っ直ぐな言葉に心を打たれた。
「すごい、、。ものすごい、いい詩だね。」
思わず自分から声をかけていた。
「え!?」
少女に目を向けた瞬間、驚きの声を上げた。
少女が、涙を流していたから。
「どうしたの、、?」
小さく問う。
「あ、、えっと。ごめん。」
そう呟いて、少女は妃詩の詩を突き返した。
「こっちこそ、、ごめん。」
机の上に無造作に置いたシャーペンを見つめながら謝った。
人と、関わるんじゃなかった。やっぱり、人と関わったら、お互い傷つくんだ。これ以上関わらない方がいい、、。妃詩は心の中でそう決意した。
「フカミくんの作品、素晴らしいですね。じゃあ、読んでみて。」
先生とフカミと呼ばれた生徒の声を上の空で聴いていた妃詩だった。