「最近、千絃、来てないよね。どうかしたのかな?」
風奏は思わず呟いた。
「え?風奏、休んでる理由知らないの?あんなに藍川と仲良いのに。」
「え?英子は知ってるの?」
「うんん、知らない。風奏が知らないのに知ってるわけないわよ。」
ここ2週間、千絃は教室に、いや、学校にすら来ていなかった。欠席扱いになっていた。
「それより、もうすぐよね。夏休み。」
風奏が少し落ち込んでいるように見えたのか、英子は話題を変えた。
今は6月の期末テストが終わり、7月に入った頃だった。
ちなみに風奏のテスト結果は中間テストと同じくらいだった。少しだけ、上がった。
「もうすぐ?まだまだ学校あるけど。」
「なに言ってるの?1ヶ月切ってるのよ!早く計画立てないと、夏休みなんてあっという間よ!」
「あ、、そう。」
「あ、、そう。じゃないわよ!!夏休み、逃してもいいわけ?今から夏休みにしたいこと、言ってみなさいよ!」
怒ったように英子は風奏に訊く。
「うーん、、。ピアノ、かな?」
「ピアノ!?それだけ?、、あ、それだけっていう言い方は悪いわね、、。なんで?」
「夏休みにコンクールがあるから。そのために。」
「え!?」
今まで以上の大声を出した。
「それを先に言ってよ!!何処で?いつ?絶対行くから!!」
「えーっと。海辺のホールで。えっと、夏休みの終わり。え?ホントに?ありがと!」
「わかったわ。絶対に行くから!」
笑顔で英子が言った。
「それなら、ピアノも仕方ないわね。」
「、、もちろん、英子と遊ぶこともしたいことだよ?」
風奏がイタズラっ子のように言った。
「ッ!?、、うん!!」
笑顔で英子は頷いた。
「それにしても、風奏はすごいわね。ピアノで人を救うんだから。」
「え?」
「あたし、風奏のピアノに、救われたよ。優しい気持ちにさせてくれるっていうか。気持ちが軽くなるような音っていうか。とにかく、すごいんだってわかった。風奏の音、あたし、大好き。」
「、、、ありがと!」
嬉しくてすぐに言葉が出てこなかった風奏だった。
「英子ちゃん!」
律が英子を呼んだ。
「ごめん、風奏。」
と一声かけると律の方へかけて行った。
お互い好き同士なのに、付き合ったという話は聞いていない。お似合いなのに、、。と風奏は1人、仲睦まじく喋る2人を見つめながら思った。
Lichiとしてギターを奏でる律を思い出した。まだ英子と同じく生で聴いたことはない。けど、ネットでギターを弾く後ろ姿は、誰がみても、楽しそうだ。ギターが、本当に好きなんだなと、伝わってきた。
千絃も同じだ。
歌が、本当に好きなんだなって伝わってくる。歌うことを心から楽しんでいると伝わってくる。
音楽が大好きな2人だからこそ、仲がすごく良くて、みんなに勇気を届けられる音楽を奏でられるんだろうな。
でも、、。
風奏は不安を抱いていた。
あの時の、、千絃の姿。心に引っ掛かっている。
音楽って、千絃にとってなにか?と、問うた時の反応。
その千絃の反応が、、風奏は忘れられないでいた。
千絃の欠席続きが、風奏の不安を増大させていた。
「風奏」
英子が風奏の元に戻ってきた。
「藍川のことだけど、律くんによると、なにも心配しなくていいって言ってたわよ。ただ、音楽活動が少し忙しいんだって。まあ、それを学校に行かない口実にしてるのは確かみたいよ。」
「、、そう。」
思わず、息を吐き出した。
村雨くんが言ってるんだ、、。大丈夫、、。と風奏は自分に言い聞かせた。
「良かったね。」
「うん、、。」
それでもやっぱり、心の隅に不安は残った。完全には、消えなかった。
「、、それより、今、律くんって言った?」
「え!?」
「いつも、村雨くんなのに。」
「え!?や、違、違う!あの、えっと、律くんに、、もう友達なんだし、下の名前で呼んで欲しいって、言われたの!」
「ふーん、、良かったじゃん!」
「、、うん!」
歯切れの悪い英子だったが、嬉しそうだった。
そんな英子を見て、少し元気になった風奏だった。
今日も1人で風奏は音楽室に向かった。
千絃がいないか、と淡い期待を抱くが、毎日毎日裏切られる。いなかった時の瞬間、抱いた気持ちが憎く感じる。会いたい、話したい、千絃の笑顔を見たい。いつの間にか、千絃のことを考えている風奏がいた。
「ダメダメ!今は、ピアノに集中!」
頭を振り、思考を変える。
「、、?今は?、、、なんで、私、、、あ!ダメだって!ピアノに集中だって!」
ずっと、ずっと、千絃のことが頭から離れない。
どうしちゃったんだ、私、、。風奏は思わず頭を抱えた。
と、突然。
音楽室の引き戸が一気に開かれた。
いきなりで風奏は肩をビクンと上下させた。
「あれ?君、千絃と一緒にいた。、、潮見だっけ?」
扉を大きく開け放ったのは、千絃の叔母であり、砦ヶ丘高校の音楽教師の藍川笙子だった。
「あ、はい、お久しぶりです。笙子先生。」
「どうやって入ったんだ?」
「開いてましたけど、、?」
少々戸締りの管理が気になる先生だ、、。と風奏は呆れた。
「今日はピアノの音がしていないと思ったが、いたのか。」
「はい、今から弾こうかなと。」
「そうか、、。君のピアノ、密かに楽しみにしていたんだ。私には出せない、君の音を持っているからな。悲しみ、恐怖、幸せ、様々なものが一つ残らず混ざり合っている。」
「そう、ですかね。自分では、よくわからなくて。」
「いや、胸を張ればいい。これだけの音を奏でられるんだ。自信を持て。」
真っ直ぐに風奏を見つめた。
「ありがとうございます。でも、、千絃の歌の方が綺麗だと思いますけど。」
「え?君、アイツの歌聴いたのか?」
「あ、はい。生で歌ってくれました。それに、ネットの動画も見ました。」
「まじか!?」
なにをそんなに驚いたのか、笙子先生は大声で叫んだ。
「え?」
「あ、いやいや、アイツすっげぇ恥ずかしがり屋なのに、よく人前で歌ったなぁって思って。」
「確かに。彼ってすごい恥ずかしがり屋ですよね。生で歌ってくれた時、絶対に後ろ向くなよって言って私の後ろで歌ってましたよ。」
「ぶっ!アハハハ!アイツらしい!フフ、ハハハハ!!いいこと聞いた。アイツの前で笑ってやろう。」
豪快に笑った。
「笙子先生って千絃と仲いいですよね。」
笙子先生にいじられている千絃を思い浮かべた。
「あー、、歳も近いし。お互い音楽が好きだからな。歌作るのにも手伝ってやったんだ。」
「そうだったんですね。」
笙子先生は優しく微笑んだ。
「あ!会議の時間だった。忘れてた!じゃ、私はこれで。」
と足早に笙子先生は出て行った。
「相変わらず忙しい人だなぁ。」
後ろ姿に声をかけた。
風奏は思わず呟いた。
「え?風奏、休んでる理由知らないの?あんなに藍川と仲良いのに。」
「え?英子は知ってるの?」
「うんん、知らない。風奏が知らないのに知ってるわけないわよ。」
ここ2週間、千絃は教室に、いや、学校にすら来ていなかった。欠席扱いになっていた。
「それより、もうすぐよね。夏休み。」
風奏が少し落ち込んでいるように見えたのか、英子は話題を変えた。
今は6月の期末テストが終わり、7月に入った頃だった。
ちなみに風奏のテスト結果は中間テストと同じくらいだった。少しだけ、上がった。
「もうすぐ?まだまだ学校あるけど。」
「なに言ってるの?1ヶ月切ってるのよ!早く計画立てないと、夏休みなんてあっという間よ!」
「あ、、そう。」
「あ、、そう。じゃないわよ!!夏休み、逃してもいいわけ?今から夏休みにしたいこと、言ってみなさいよ!」
怒ったように英子は風奏に訊く。
「うーん、、。ピアノ、かな?」
「ピアノ!?それだけ?、、あ、それだけっていう言い方は悪いわね、、。なんで?」
「夏休みにコンクールがあるから。そのために。」
「え!?」
今まで以上の大声を出した。
「それを先に言ってよ!!何処で?いつ?絶対行くから!!」
「えーっと。海辺のホールで。えっと、夏休みの終わり。え?ホントに?ありがと!」
「わかったわ。絶対に行くから!」
笑顔で英子が言った。
「それなら、ピアノも仕方ないわね。」
「、、もちろん、英子と遊ぶこともしたいことだよ?」
風奏がイタズラっ子のように言った。
「ッ!?、、うん!!」
笑顔で英子は頷いた。
「それにしても、風奏はすごいわね。ピアノで人を救うんだから。」
「え?」
「あたし、風奏のピアノに、救われたよ。優しい気持ちにさせてくれるっていうか。気持ちが軽くなるような音っていうか。とにかく、すごいんだってわかった。風奏の音、あたし、大好き。」
「、、、ありがと!」
嬉しくてすぐに言葉が出てこなかった風奏だった。
「英子ちゃん!」
律が英子を呼んだ。
「ごめん、風奏。」
と一声かけると律の方へかけて行った。
お互い好き同士なのに、付き合ったという話は聞いていない。お似合いなのに、、。と風奏は1人、仲睦まじく喋る2人を見つめながら思った。
Lichiとしてギターを奏でる律を思い出した。まだ英子と同じく生で聴いたことはない。けど、ネットでギターを弾く後ろ姿は、誰がみても、楽しそうだ。ギターが、本当に好きなんだなと、伝わってきた。
千絃も同じだ。
歌が、本当に好きなんだなって伝わってくる。歌うことを心から楽しんでいると伝わってくる。
音楽が大好きな2人だからこそ、仲がすごく良くて、みんなに勇気を届けられる音楽を奏でられるんだろうな。
でも、、。
風奏は不安を抱いていた。
あの時の、、千絃の姿。心に引っ掛かっている。
音楽って、千絃にとってなにか?と、問うた時の反応。
その千絃の反応が、、風奏は忘れられないでいた。
千絃の欠席続きが、風奏の不安を増大させていた。
「風奏」
英子が風奏の元に戻ってきた。
「藍川のことだけど、律くんによると、なにも心配しなくていいって言ってたわよ。ただ、音楽活動が少し忙しいんだって。まあ、それを学校に行かない口実にしてるのは確かみたいよ。」
「、、そう。」
思わず、息を吐き出した。
村雨くんが言ってるんだ、、。大丈夫、、。と風奏は自分に言い聞かせた。
「良かったね。」
「うん、、。」
それでもやっぱり、心の隅に不安は残った。完全には、消えなかった。
「、、それより、今、律くんって言った?」
「え!?」
「いつも、村雨くんなのに。」
「え!?や、違、違う!あの、えっと、律くんに、、もう友達なんだし、下の名前で呼んで欲しいって、言われたの!」
「ふーん、、良かったじゃん!」
「、、うん!」
歯切れの悪い英子だったが、嬉しそうだった。
そんな英子を見て、少し元気になった風奏だった。
今日も1人で風奏は音楽室に向かった。
千絃がいないか、と淡い期待を抱くが、毎日毎日裏切られる。いなかった時の瞬間、抱いた気持ちが憎く感じる。会いたい、話したい、千絃の笑顔を見たい。いつの間にか、千絃のことを考えている風奏がいた。
「ダメダメ!今は、ピアノに集中!」
頭を振り、思考を変える。
「、、?今は?、、、なんで、私、、、あ!ダメだって!ピアノに集中だって!」
ずっと、ずっと、千絃のことが頭から離れない。
どうしちゃったんだ、私、、。風奏は思わず頭を抱えた。
と、突然。
音楽室の引き戸が一気に開かれた。
いきなりで風奏は肩をビクンと上下させた。
「あれ?君、千絃と一緒にいた。、、潮見だっけ?」
扉を大きく開け放ったのは、千絃の叔母であり、砦ヶ丘高校の音楽教師の藍川笙子だった。
「あ、はい、お久しぶりです。笙子先生。」
「どうやって入ったんだ?」
「開いてましたけど、、?」
少々戸締りの管理が気になる先生だ、、。と風奏は呆れた。
「今日はピアノの音がしていないと思ったが、いたのか。」
「はい、今から弾こうかなと。」
「そうか、、。君のピアノ、密かに楽しみにしていたんだ。私には出せない、君の音を持っているからな。悲しみ、恐怖、幸せ、様々なものが一つ残らず混ざり合っている。」
「そう、ですかね。自分では、よくわからなくて。」
「いや、胸を張ればいい。これだけの音を奏でられるんだ。自信を持て。」
真っ直ぐに風奏を見つめた。
「ありがとうございます。でも、、千絃の歌の方が綺麗だと思いますけど。」
「え?君、アイツの歌聴いたのか?」
「あ、はい。生で歌ってくれました。それに、ネットの動画も見ました。」
「まじか!?」
なにをそんなに驚いたのか、笙子先生は大声で叫んだ。
「え?」
「あ、いやいや、アイツすっげぇ恥ずかしがり屋なのに、よく人前で歌ったなぁって思って。」
「確かに。彼ってすごい恥ずかしがり屋ですよね。生で歌ってくれた時、絶対に後ろ向くなよって言って私の後ろで歌ってましたよ。」
「ぶっ!アハハハ!アイツらしい!フフ、ハハハハ!!いいこと聞いた。アイツの前で笑ってやろう。」
豪快に笑った。
「笙子先生って千絃と仲いいですよね。」
笙子先生にいじられている千絃を思い浮かべた。
「あー、、歳も近いし。お互い音楽が好きだからな。歌作るのにも手伝ってやったんだ。」
「そうだったんですね。」
笙子先生は優しく微笑んだ。
「あ!会議の時間だった。忘れてた!じゃ、私はこれで。」
と足早に笙子先生は出て行った。
「相変わらず忙しい人だなぁ。」
後ろ姿に声をかけた。