俺は部屋にもどり、手紙をあけることにした。ベッドの上で開けようと思ったのだが俺の布団の上で、ハナがへそ天で寝ていたので勉強机の椅子に座った。
手紙の差出人はかえでの両親からだった。かえでは入院して2か月後に亡くなったと書いてあった。俺との話を楽しそうにしてくれたと、最後まで笑顔でいてくれたと書かれ、お礼も書き添えられていた。病院をぬけだしたのが、かえでの為になったのか、俺にはわからない。むしろ、かえでの命を縮めてしまったのではないかと思った。
俺はただかえでにあの光景を見せたかっただけなのだ。お礼を言われるようなことはなにもしていない。
読み終わった手紙を封筒に入れようと思ったが、なにか硬いものが封筒に引っかかっているのに気づいた。俺は慎重にカッターで封筒をさらに開いた。
引っかかっていたのはポストカード大の絵だった。
それは俺とかえでがみた、あの青一色の朝顔と空の風景だった。
そこに背の高い男性と背の低い女性が描かれていて、そばに白い小さな犬もいた。小さな白い犬はハナがモデルなのだろう。俺とかえでが、望んだ姿が描かれていた。
絵を持つ手が小刻みに震える。
俺は震える手で、絵をひっくり返す。裏側の白い面にくねくねとした文字が入っていた。かえでが最後にかきつづった文字だ。俺は指でその文字をひとつひとつ、ゆっくりたどる。かえでの痕跡がまだあるような気がしたから。
「ありがとう。ヘブンリーブルー。またいつか」
単語だけの短い、かえでの言葉だった。