空がだんだんと明るくなり始めている。紫とオレンジがグラデーションになって田舎のガタガタ道を照らす。
ハナとの散歩道を今、俺はかえでと一緒に歩いている。
車いすに乗っているかえではずっと楽しそうにしている。心なしか俺との会話の声にも張りがでてきたような気がした。
「ここがハナちゃんと散歩してるところなんだね。私もハナちゃんに会いたかったな」
「さすがに病院には連れていけないからな。今度会わせるよ」
「すっごく、楽しみ」
今度ってことがないことは俺もかえでもなんとなくわかっている。でも、今度とか来年とかその先のことを話さないと目の前の現実に二人とも押しつぶされそうだった。
目的地にもうすぐつく。
俺は車いすを押す手に力をこめ、登坂をあがっていく。なにかのカウントダウンがはじまっているような気分だった。
それがなんなのか俺にはわからないが、ただただ時計の針が進んでいくことを感じながら車いすをおした。坂を登り切り、目の前がひらける。
「すごい・・・」
かえでの口から感嘆の言葉がこぼれおちた。
俺もかえでのみている方向に目をやる。
朝日が一面の青色を照らし出す。丘の一面に水色の朝顔が太陽に向かって一斉に咲きだした。
命の芽吹きというのはこうなんだろうか。かえでも俺も、その光景をみたまま黙っていた。かえでが俺の手をそっと握る。俺もかえでの手を握り返した。
「ありがとう」
かえでの言葉はとても小さく、空に消えてしまった。


俺たちはその後、朝一番に畑仕事にきた俺のじいちゃんに発見された。じいちゃんには怒られなかったが、両親には物凄く怒られた。かえではすぐに病院とかえでの両親がうちに迎えに来て、即入院となった。当たり前といえば当たり前だ。
迎えが来るまでの間、俺の家でかえでは休むことになった。その間、ハナはかえでの側を離れず、お互いに何か通じ合うものがあったらしい。


あれから3か月経った。俺は今日も田舎の道を歩く。野球部の練習から自転車をおしながら家路につく。かえでと見た朝顔とあの空をまた一緒にみれたらと、毎回思いながら。
家に帰ると、ポストに一通、俺宛の手紙が来ていた。差出人はかえでと同じ苗字の知らない名前だった。