そこにいたのはさらに小さくなり、青白さに拍車のかかったかえでの姿だった。結っていた前髪はもうないのだろう。かえでの好きな青色のスカーフが頭に巻いてあった。
俺はただ呆然とかえでの姿をみていた。
かえでの姿がじわじわと歪み、頬になにか伝うのを感じる。
「せっかく、会えたのに泣かないでよ」
かえでがゆっくりと俺に手を伸ばしてくれる。俺はかえでの手をとり、かえでが体を起こすのを手伝った。
かえではそのまま、俺をだきしめて「大丈夫だから、泣かないなかない」声は弱弱しいのに、やけに力強く「大丈夫だ」と何度も何度も伝えてくれた。
どれくらい時間がたったのだろうか、かえでが「そろそろ泣き止んだ?」と聞いてきた。
俺は相当、泣いていたらしい。
「そうだ!かえで、病院抜けだせるか?」
かえでの吸い込まれそうな目が驚きに見開かれる。そして、何かを決意したかのようにコクリとうなづいた。
「みせたいものがあるんだ」
「わかった。でも、私今歩けないの」
「俺が運ぶ」
俺は車いすをかえでの側にもってくる。かえでの指示に従いながら、かえでをゆっくりと持ち上げた。
軽い。あまりにも軽すぎて怖い。
調子がよくないのも、触れている体温の低さからわかった。
でも、俺もかえでも今日を逃すつもりはなかった。
俺はかえでを車いすにのせると、猛スピードで走り出す。
俺たちは深夜の病院を抜け出すことに成功した。


俺は病院からぬけだし、しばらくしてからゆっくりペースで目的地に向かった。
目的地まではしばらく時間がかかる。
俺たちは道中、沢山の話をした。
小さいころから、かえでは病気がちであまり学校にいけていないこと。絵だけはどこでも描けるので、ずっと描いていること。かえでが青色の絵をずっと描いている理由も、病棟から見えるのはいつも空だけだからというのだ。
本当の空と朝顔が見たい。かえではそういった。
途中、俺たちはコンビニで腹の中に食べ物をいれた。かえでは「誰かとコンビニ飯を食べるのははじめて」と初体験に笑っている。
コンビニのチキンをパンにはさんで、チキンサンドにして食べると美味しいことをかえでに教えてあげた。かえでは「今度やってみる」と楽しみだと笑っていた。
コンビニで腹を満たすと、また俺たちは歩き出した。