かえでさんはむくれ顔で俺の顔をのぞく。
「ごめん、うちの犬にそっくりでほんとごめん」
「そのわんこ、私に似てめっちゃ可愛いんでしょ?」
かえでさんは自信ありげに見える。めっちゃポジティブだ。たぶん性格はものすごくあかるいのではないだろうか。
「うん。まちがいなく可愛い」
「なら許す!私のことは呼び捨てでいいよ」
かえでは小さい体でも、中身はとても大人だった。
「俺もハルカでいい」
「これで、かえでちゃんもハルカも友達だな」
怜央はとても満足気がだった。どうやら、俺とかえでを友達にしたかったようだ。
それから俺たちは互いの病室を行き来するようになったのだった。


かえでの病室は個室だった。ちょっとしたホテルのような感じで、ソファやテーブルがあったりする。
テーブルでかえでと、怜央と話したりゲームしたりすることが多かった。
今日は何を思ったのか、怜央が絵を描きたいといいだして、お絵描き大会となっている。
かえでは自分の絵を描きながら怜央の絵をみて、「上手だね」と怜央をほめていた。
かえでの病室は絵でみた水色のような青色がところどころに飾られている。なかでも一番多いのが朝顔の絵と写真だった。
「かえでってもしかして、朝顔好き?」
「うん。大好き!もともと青系の色が好きなんだけど、花は朝顔が一番好きかなぁ」
「へぇ」
「朝顔って朝に咲くんだけど、なんかそれがいいなって思う。朝がやってきたぞぉ!って感じするじゃない?」
「そんなもんか?俺は小学生んときの観察日記で、もういいやってなったけどな」
毎朝、起きて観察日記を付けるっていうルーティーンがきつかった。朝顔の絵がとてつもなく、ツラかった。毎朝、絵を描かされるのが拷問のように感じたことを俺は鮮明に覚えている。
目の前にいる、かえでの表情が少しだけ曇ったようにみえる。やってしまった。俺は、かえでの好きなものを無意識に貶してしまったのだ。俺はまたやってしまったのだ。無意識にかえでを傷つけてしまったのだ。
かえでに謝ろうと、声をかけようとしたその時、空気を読まない明るい声が届いた。
「ハルカは絵へったくそだもんな!」