看護師さんは絵のことではなく、描いた子の説明をしてくれた。どういう子なのか気にはなったが、絵が得意ではない俺とは話が合わないだろうなぁとも思う。ただ、この青色の絵は好きだ。
俺はもう少し見ていたい気持ちを抑えながら、看護師さんとともに病室に向かった。


午前中にリハビリを終えて午後は早く右足を治すために昼寝をするのが俺の日課だった。 しかし、昼寝を邪魔するやつもいる。
「ハルカ!今日も歩くのか?」
目をあけると、期待の眼差しでこちらを見ている子供の顔が見えた。怜央という看護師さんたちが手を焼く元気な五歳児だ。
入院した翌日から怜央に突撃され続け、俺は慣れてきてしまっていた。
怜央が俺のベッドに乗り上げて、期待した目を向けてくる。
「おまえさ、毎回毎回飽きねぇの?」
「オレはかんごしさんにハルカのことをたのまれたからな」
俺の上に遠慮なくすわり、怜央は胸をはる。入院した当初に看護師さんが怜央に案内をたのんだのだ。ようするに看護師さんたちは怜央の相手を俺におしつけた。まぁ退屈はしないので、いいのだが。
「松葉杖とってくれ」
歩くための松葉杖をとるように頼むと、すぐに俺から飛び降りる。ベッドわきに置いた松葉杖を玲央は抱えて、俺に渡すのを待ち構えた。なにかを頼むと玲央はものすごくやる気に満ちる。なぜかはわからない。そういえば入院が長い子ほど、なにか頼むとやる気に満ちている気がした。
「またあの絵のところにいくんだろ?」
「ああ、ちょうどいいからな」
玲央はすでに俺の行動パターンを把握している。松葉杖で歩けるようになってから、俺は入院初日にみた青い空と朝顔の絵を見に行くのがルーティンになっていた。
俺は玲央の先導で松葉杖をついて病室をあとにした。




病院の庭を歩き終わり、いつもの場所に到着する。いつもの場所とは俺が好きなあの青色の絵の前だ。
どこまでも続きそうな空の色に俺は惹かれたらしい。幼稚園の頃からずっと見てきた野球グランドの空に似ていると俺は感じていた。今年は野球帽の向こうにみえる青空が見れないのが寂しかった。
「あ、かえでちゃんだ」
大人しく絵をみていた怜央が声をあげる。