「ばっかねぇ。で、失恋記録をこれでもかってくらい更新してるくせに、未だこりずに忠実に尻尾振ってご主人さまを待ってるわけ?」

 放課後になり、(はく)ちゃんを待つために彼の教室の付近をうろうろしていたわたしの髪を大親友の(ゆめ)が呆れた面持ちで引っ張ってくる。

「い、痛い! な、何よ、夢。いきなり」

 不意打ちだったからびっくりした。

「悪いことは言わないわ。もう諦めなさい。秋月(あきづき)のやつ、午後に入ってからどうしようもないくらい何度も何度もため息ついてたわよ」

 絶対あんたが朝から付きまとってるせいだと思うんだけど、と夢の辛辣な一言が容赦なく突き刺さる。

「ほ、ほっといてよ! 今にでも幸せのため息に変えてみせるから!」

「ったく、どこからくるのよ、その自信。あたしは無難に結城光(ゆうきひかる)にしといたほうがいいと思うわよ。ほら、この前告られたんでしょ?」

(ちょっ!)

「そ、そんなのとっくに断ってるに決まってるでしょ! ってか、大声で言わないでよ! は、白ちゃんに聞こえたらどうするのよ!」

 いつの話だろうか。

 夢は相変わらず古い話を持ち出すのが好きだ。

 でも、今こんなところで大声で話題にされては困る内容であることはたしかだ。

 白ちゃんに聞かれたら、絶対にそっちにいけって言われるに決まっている。

「あー、大丈夫よ。あいつ、さっき先生に呼ばれて職員室に行っちゃったから」

 挙動不審にあちこち見回すわたしにあきれたように夢が肩をすくめる。

 今までのやり取りを聞かれる心配がなくて安心した反面、ここにいないという事実もなんだか残念に思えた。重症だ。

「むうぅ……同じクラスだなんて、本当に夢が羨ましすぎる!」

「変われたら変わってあげたいものよ。どこがいいのか、あんなヤツ。たしかに顔はいいけどいっつもむすっとしてるし、一人でいる方が好きみたいだし、近づきにくいったら」

「前世にどれだけ徳を積んだら夢みたいに同じクラスになれるのよ……」

「ねぇ、聞いてる?」

「そうよ、モテるから困ってるのよ」

 近づきにくいくせにモテてしまうから困っているのだ。

「あーもう、もったいない。小春ならもっと他にいい相手がいっぱいいるのに」

「夢までそんなこと……」

 誰もわかってくれなくて、悲しくなる。でも、

「ま、落ち込んでても始まらないわ。今日は放課後デートを楽しむことだけを考えないと。なにか新しい第一歩を踏み出せるかもしれないし」

 今日より明日。明日よりも明後日よ!

「じゃあ、夢、わたしも職員室に行くね」

 呆れていた夢も、わたしがそう笑ったころには優しい瞳で頷いてくれた。

 また明日ね!と全力で駆け出すわたしに、頑張れよ!という夢の声が聞こえたきた。

 別に、焦ってるわけでもないし、時間がないわけでもない。

 それでも、わたしは今という時は永遠ではないことを知っていた。