「さっき借りた本見よっか」
「そうだな」
感情の変化を悟られないよう話題をそらす。土佐辺くんがカバンから本を取り出している間に、帰りが遅くなる旨を亜衣にメールしておく。
「机は勉強机しかねーし、借りた本を床に広げるのもなぁ。ベッドでいいか」
ベッドに並んで腰掛け、間に本を置く。男子高校生二人が部屋でファッション専門用語の本を読むという状況に思わず笑いが込み上げる。
「ふふ、なんだかおかしい」
「違う本のが良かったか?」
「違う本って?」
「前に言ったろ。エロい本」
「い、要らない!」
見るとしても、友だちと一緒に読むものではない。そういえば、以前エロ本を貸す貸さないの話をした。この部屋にもあるのだろうか、と無意識のうちに本棚に視線を向ける。
「そんな目立つとこにはねーよ」
「べっ別に探してるわけじゃ」
「エロ本の隠し場所って言ったら……」
土佐辺くんが指差したのは真下。僕も腰を下ろしている彼のベッドだ。
「見ないからね!」
「はは、顔真っ赤じゃん」
「君が変な話するからだろ!」
部屋に二人きりだっていうのに、反応しづらい話題はやめてほしい。脱線ばかりで本来の目的を見失っている。
ようやく借りてきた本を広げ、普通の男子が知らないような専門用語を探していく。
「写真で紹介するならクラスの女子が持ってそうな服を選んだほうがいいかな」
「私服見たことないから分かんねー」
「それは確かに」
候補を挙げた中から女性陣にピックアップしてもらうことにして、本に付箋で印を付けていく。
「ミモレとマキシってスカートの長さのことだったんだ。全然分かんなかった」
「これ採用だな」
「ペプラム……クロシェ……カシュクール……ヘリンボーン……? 全部呪文に見える」
パッと見で形状が思い浮かばないものばかりで、本はほとんどのページに付箋が貼られた。本ごと檜葉さんに丸投げしたほうが早かったかもしれない。
「これくらいにしておくか。休憩しようぜ。なんか飲み物持ってくる」
「うん、ありがとう」
「ベッドの下、漁ってもいいぞ」
「そ、そんなことしないって!」
ハハハ、と笑いながら土佐辺くんは階下に飲み物を取りにいった。変な話ばかり振ってくるから、なんだかドッと疲れてしまった。でも、楽しい。こんな風に話せるようになったのは最近のことなのに、ずっと友だちだったみたいな。
不意にポケットの中のスマホが震えた。取り出して画面を見れば、メールが一件届いていた。亜衣からの返信かと思って確認すると、差し出し人は先輩だった。先ほど登録したばかりのアドレスから画像が二件送られてきている。
添付されていた画像は先日の文化祭の時に撮られた例の写真だった。