ファッション関連の本が並ぶエリアで目当ての本を見つけ、パラパラと捲って中を見る。実際の服の写真と名称などが見やすく解説されている。亜衣や駿河くんが言っていた謎の呪文みたいなものも載っていた。
「オフショルってこういう形の服なんだね。亜衣のやつ、僕にコレを着せる気だったのか」
「メイド服よりはマシだろ」
「肩が丸出しなんだけど?」
確かに、これなら肩周りがキツくて動けないということはなさそう。女装して終わりではなく給仕や見回りの仕事をしなければならないのだ。稼働範囲が制限されては意味がない。
「でも、すごいね。こんなにたくさん服の種類や呼び方があるなんて知らなかった」
「意外と面白いよな」
駿河くんが言っていたドルマンスリーブも調べてみた。なるほど、袖がゆったりしている服をそう呼ぶのか。言葉の感じから勝手に『敵を眠らせる系の呪文』っぽいなと思ってたけど全然違った。
「これ、掲示物のひとつに使えないかな。みんなが着る服の種類や特徴を解説する写真かイラスト付きのポスター作って、教室の前の廊下に貼ったりして」
僕が疎いだけでなく、多分ほとんどの男はこんな用語が存在していることすら知らないと思う。通り掛かる人たちが掲示物を見て関心を持ったらカフェにも立ち寄ってくれるかもしれない。
「やってみるか」
「うん!」
展示するからには間違った情報は載せられない。他にも何冊か参考になりそうな本を選んで借りることにする。
貸し出し手続きをするため、カウンターへと向かう。図鑑みたいな大きくて重い本もあるからか、土佐辺くんが全部持ってくれた。
彼の後ろに着いて本棚が立ち並ぶエリアを進んでいくと、視界の端に手招きする男の人の姿が映った。顔を向ければ、通り過ぎ掛けた通路の奥に先輩が立っている。
「……っ」
目の前を歩く土佐辺くんの背中と離れた場所から手招きする先輩を交互に見る。どうしよう。迷う僕を嘲笑うように、先輩はスマホを取り出して画面をこちらに向けた。遠くて見えないけど、あれはきっと文化祭の時の写真だ。
「土佐辺くん」
「なに?」
声を掛けると、土佐辺くんはすぐに振り返った。先輩が居ると告げれば、彼はきっと間に入ってくれるだろう。
でも、あの写真を見られて僕の好きな相手がバレてしまったら。妹の彼氏が好きだと知られてしまったら、もうこんな風に喋ってくれなくなってしまうかもしれない。せっかく仲良くなれたのに。せめて文化祭が終わるまでは隠し通したい。
「……ええと、僕、ちょっとトイレ」
「分かった。カウンター前にいるから」
「うん、じゃあ」
うまく笑えていたかな。
声は震えてなかったかな。
僕は土佐辺くんのそばから離れ、先輩が待つ通路の奥へと足を踏み出した。