「土佐辺くん、ちょっといいー?」
離れた席で他の人たちとお昼を食べてた土佐辺くんに声を掛け、こっちに来てもらう。
「どうした安麻田」
「この前の文化祭で撮った写真ある? 僕が写ってるのがあったら見せてほしいんだけど」
「あるけど、なんで?」
「女子に服を貸すことになるかもしれなくて、それで僕が普段どんな服着てるか見たいんだって」
「ああ、なるほど」
檜葉さんをチラリと見てから、土佐辺くんは自分のスマホを操作して写真を探し始めた。
「全身が見たいならコレかな」
スマホ画面にはジオラマの展示を見ながらはしゃぐ僕の写真が表示されている。確かに全身写っているが、いつのまに撮っていたんだろう。
「ん~、安麻田くんが着てるからかしら。この服、女子が着てもただの『ボーイッシュな女の子』にならない?」
「えっ!?」
いちおう男モノの服なのに。
「もうちょいアップの写真ある?」
「んじゃコレ」
次に土佐辺くんが見せたのは、カフェコーナーでミニパンケーキを食べている僕の写真だった。
それを見た檜葉さんと駿河くんは無言で視線を合わせ、チラッと僕を見てから何度か頷いた。なんだ、なんのやり取りだ今のは。
「安麻田くんの私服の傾向はよく分かったわ。また相談させてね」
「う、うん」
「土佐辺くんも写真ありがとう。参考になったわ」
「お、おう」
にっこり笑って檜葉さんは去っていった。
「なんだったんだろうね、今の」
「さあ?」
土佐辺くんが自分の席に戻っていった後、何故か駿河くんは神妙な顔付きでおにぎりを食べている。さっきの謎のアイコンタクトといい、檜葉さんと仲良くなってるよね。
「駿河くんはもう借りる服決まった?」
「ああ、前の日曜に」
「どんな服?」
「ドルマンスリーブのカットソーと……」
「出た、呪文! なにそれ」
「女性の服の形状を表す言葉だそうだ」
「全くイメージできないんだけど」
「俺も実物を見るまで分からなかった」
普通はそうだよね。
男には馴染みが無さ過ぎるもん。
「貸すほうも決まった?」
「ああ。持参した服を試着してもらって、問題なかったからそのまま置いてきた」
「へえ……エッ?」
駿河くんが檜葉さんちに行ったってことか。周りに聞こえないよう尋ねたら「そうだが?」と平然と頷かれた。仲は良くなったみたいだけど、異性として意識しているわけではないのかもしれない。