文化祭の準備は予定より順調に進んでいた。幾つかの班に分けることで効率よく作業が分担できており、時々経過を確認するだけで済む。実行委員なんて責任重大だと思っていたけど、土佐辺くんの言う通りそこまで気負うほどではなかった。いや、彼の前知識と下準備のおかげか。

「衣装のことで相談したいんだけど」

 昼休み。いつものように駿河くんと机を合わせて一緒に食べていたら檜葉さんが割り込んできた。近くの席から椅子を持ってきて座る。

「男モノの服を借りるアテがない子がいるのよ。安麻田くん貸してくれない?」
「え、僕?」
「そう。男子の中であなたが一番小さ……ンンッ、小柄だから」

 クラス内での服の貸し借りも最初から想定していたことだ。実行委員だし、もちろん協力は惜しまない。

「構わないけど、僕の服でいいの?」
「安麻田くんは臭くなさそうだから」

 なにその判断基準。他の男子も別に臭くは……いや、朝練後のスポーツ推薦組は若干汗臭いかもしれない。

「ちなみに、普段はどんな私服を着ているの? 黒くてやたらベルトや(びょう)が付いてたり謎のダメージ加工がされている服ならやめておくわ」

 檜葉さん?
 僕をなんだと思ってるの?

「べつに普通だと思うけど。この前出掛けた時の写真でも確認する?」
「写真があるなら参考までに見せてくれる?」
「ちょっと待ってね」

 スマホを取り出して画像フォルダを確認してみたが、看板や内装、展示の写真ばかり。お化け屋敷で記録保持者の記念写真が貼られた掲示板を撮った写真はあるけど、これでは着ている服が見えにくい。次に行ったカフェコーナーでクッキーを食べている土佐辺くんの写真はあった。自撮りする趣味はないので、自分のスマホに自分の写真がなくて当然だ。