教室の広さから考えて次の通路が最後だろう。ここまでに凝った仕掛けが幾つもあった。恐らく出口付近に一番驚かせるようなものが待ち構えているはずだ。そう思うと身体に自然と力が入ってしまう。

 こわばる僕の手を土佐辺くんが握り返した。彼はずっと冷静だ。怖がることもなく、なにがどうやって作られているかをじっくり観察している。今日は他校の文化祭を見学し、自分たちの出し物に活かすために来た。目的を忘れずに行動する土佐辺くんは流石だ。

「なんもねぇな」
「そ、そうだね」

 最後の通路は左右の足元に蝋燭(ろうそく)のように揺らめくLEDランプが置かれているだけ。特になにかが出てきたりすることはない。いや、油断させてからオバケ役が飛び出してくるのかもしれない。警戒しながら薄暗い通路をゆっくりと進む。

「出口だ」

 数メートル先に遮光カーテンの隙間から漏れる光が見えた。廊下のざわめきや亜衣たちの呼び込みの声が微かに聞こえてくる。参加者を驚かせる仕掛けは先ほどのゴム手袋が最後だったのか。身構えて損した。

「なんだ、拍子抜けだったな」

 安堵の溜め息をついた瞬間。



「うわあああああ!!!」



 すぐ隣から絶叫が聞こえた。土佐辺くんだ。声の大きさにびっくりして見上げると、仕切りの壁の上から糸で吊られたコンニャクがぶら下がっており、土佐辺くんのおでこに当たっていた。

「おっ、なかなかの高数値!」
「これはイケるんじゃねえ?」

 物陰から二人の人影が飛び出してきて、僕はまた悲鳴を上げそうになった。出てきたのは白い浴衣を着た迅堂くんともう一人の驚かし役だった。

「おっす土佐辺。久しぶり~」
「……迅堂……」
「瑠衣も来てくれてサンキューな!」
「う、うん」

 お化け屋敷だというのに明るく声を掛ける迅堂くんに対し、土佐辺くんは不機嫌そうに顔をしかめた。さっきコンニャクがぶつかったあたりを手で何度も拭っている。

「さっきの子と数値一緒だぞ」
「え、マジ? そんなことある?」

 そんな土佐辺くんをよそに、迅堂くんともう一人は手にした機械を見ながら何やら話し込んでいる。

「なにそれ」
「小型デジタル騒音計測器」

 僕が問うと、迅堂くんが機械を見せてくれた。手のひらサイズで、液晶画面とマイクがついている。音の大きさを計測して数値で表示されるらしい。彼らの持つ計測器の画面には、確かに同じ数値が並んでいた。

「こっちは瑠衣の。こっちは土佐辺な。どっちも現時点での新記録だからチケットやるよ」
「マジかよ」

 意表を突かれたとはいえ、記録に残るほどの声を上げてしまったことが恥ずかしかったのだろう。土佐辺くんは片手で自分の顔を覆い隠している。