土曜の朝九時過ぎ、土佐辺くんからの『もうすぐ着く』というメールで飛び起きた。

 亜衣たちの高校の文化祭を見に行く約束をしているが、開場は十一時からだ。十時半くらいに僕の家に迎えに来るという約束だったのに一時間も早い。僕まだ着替えてないんだけど。

 そうこうしているうちに玄関のチャイムが鳴り、慌てて階下へと降りる。

「悪い。早く来過ぎた」
「ううん、いいよ。上がって待ってて」

 申し訳なさそうな土佐辺くんを家の中に招き入れ、リビングに通す。

「家の人は?」
「休みの日は昼まで起きてこないよ」

 父さんも母さんもフルタイムで働いている。土日は貴重な休息時間なので、いつも昼近い時間まで寝室から出てこない。亜衣は朝から学校に行っている。今頃は文化祭の準備をしているはずだ。

 土佐辺くんがうちのリビングにいるの、なんだか変な感じ。今日の彼はVネックのTシャツに薄手の上着を羽織っている。制服以外の私服姿を見たのは小学生の頃以来かもしれない。

「着替えてくるね。待ってて」

 僕はまだパジャマ代わりの部屋着姿だ。部屋に戻ろうとしたら、土佐辺くんがリビングの出入り口に立ち塞がった。

「オレも行っていい?」
「え、なんで?」
「安麻田がいない間に家の人が起きてきたら気まずい」

 それは確かに気まずい。僕だって朝起きてリビングに知らない人がいたらびっくりするもん。仕方なく一緒に二階へと向かう。

「お、片付いてるな」
「いつもはもう少し散らかってるよ」

 とりあえず勉強机の椅子に座ってもらい、僕はクローゼットを開けて今日着ていく服を選ぶ。夏から秋に移る時期はいつも何を着たらいいか分からなくて迷う。晴れていれば暑いけど、日が陰れば肌寒かったりもする。

 土佐辺くんみたいに、半袖に薄手の上着を羽織ればいいかと考えながら服を取り出したところで動きを止める。人前での着替えが恥ずかしいからだ。

 男同士だし、教室では体操服に着替えたりも普通にするけど、自分の部屋で誰かがいる時に着替えたことなんかない。でも、下手に恥ずかしがると不審に思われてしまう。全裸になるわけじゃないし、さっさと着替えてしまおう。

 土佐辺くんは勉強机に置いてあった文庫本を手に取ってパラパラ捲っている。今のうちだ。彼に背を向けて部屋着代わりのTシャツを脱ぎ、スウェットに手を掛けた時、すぐ後ろから話し掛けられた。