亜衣が誰かに取られないうちに繋ぎ止めておきたいというのは後付けの理由で、好きな相手に触れたいと思うのは自然な欲求だ。もし僕のせいで二人がイチャイチャ出来ずに別れるような事態になったら困る。
じゃあ、どうするか。
帰宅時間を少し遅らせるか。
どこで時間を潰せばいいんだ?
来週はテストだ。半日で学校が終わるから、いつもより早く家に帰れてしまう。勉強もしたいし、連日ファミレスに寄るお金もない。
そういえば、図書館の利用カードを作ったんだった。本も借りれるし自習スペースもある。図書館ならば午後六時の閉館まで時間が潰せる。僕がいない時間帯さえ把握していれば二人は邪魔されず、僕も気まずい思いをしなくて済む。
……なんだろう。虚しい。
分かっていたはずなのに、覚悟していたはずなのに、いざそういう状況になると胸が締め付けられて苦しい。
こんなの全然健全じゃない。
いま辛いなら、この先は?
僕は一生耐えていけるのか?
「……もう、無理だよ」
無意識のうちに本音が口からこぼれ落ちる。想いを隠し、何食わぬ顔をして祝福し続けるなんて耐えられるわけがない。
もう終わりにしなくちゃ。
不毛な片想いは辞めよう。
他の誰かを好きになろう。
「……ッ」
真っ暗な部屋の中、ベッドの中で自分の身体を抱きしめる。初恋を捨てると決めた途端、とめどなく涙が溢れた。隣の部屋にいる亜衣に聞こえないように唇を噛み、頭まで布団を被ってただただ嗚咽を耐える。
涙が止まる頃には吹っ切れていますように……なんて、そんな簡単に切り替えられるくらいなら最初から彼を好きになってない。