勉強会は順調に進んだ。最初は遠慮していたスポーツ推薦組も、土佐辺くんが意外と話しやすいと分かったら気軽に質問するようになった。駿河くんと僕も、それぞれ得意科目について聞かれたことを教える。うまく説明できなくてアタフタしていると「安麻田ってアタマいいけど抜けてるよな!」とみんなに笑われてしまった。

「僕、トイレ行ってくるね」

 質問が落ち着いた頃に席を立つ。

「この図書館、トイレは一階にしかないからな。場所分かるか?」
「廊下の案内板見るから大丈夫」
「迷子になるなよー」

 土佐辺くんは僕を小学生か何かだと思っているのだろうか。

 会議室を出て一階へと下りる。ここは学校の近くにある施設だけど、僕は今まで利用したことがない。行きは何も考えずに檜葉さんについて歩いていたけど、どこに何があるのかはまだ把握していない。

 一階はたくさんの本棚が並ぶ図書スペースとなっている。案内板を頼りにトイレに行き、用を足す。手を洗ってから廊下に出ようとした時、入ってこようとした誰かに正面からぶつかってしまった。

「うわっ」
「すっすみません! 大丈夫ですか」
「平気平気。びっくりしただけだから」

 僕の不注意を怒ることなく、その人は笑って許してくれた。カッターシャツにスラックス。うちの学校の制服を着ている。ゆるく波打つ髪と優しそうな目。見掛けたことないけど、三年生だろうか。

「あれ、君、男?」
「?はい」

 男の人は僕の顔をまじまじと覗き込んできた。男子トイレから出てきたんだから男に決まってるでしょ。

「そっか、ごめんね」
「いえ。それじゃ」

 パッと前から退いてくれたので、僕は男の人の前を通って廊下に出る。去り際に頭を下げると彼はニッコリ笑って手を振り、トイレへと入っていった。

 二階の会議室に戻ると、土佐辺くんが頬杖をついてニヤニヤしていた。

「遅かったな。迷子にでもなった?」
「ま、迷ってないよ」
「じゃあ大きいほう?」
「違うってば!」

 思わず大きな声で反論したら、またみんなの注目が集まってしまった。もうやだ、恥ずかしい。