街灯に照らされた迅堂くんの姿を目に焼き付ける。彼の瞳には僕しか映っていない。
いつだって焦がれていた、憧れの人。今から僕は八年間隠し続けていた想いを伝える。自分の気持ちに区切りをつけるためだけに。
「僕ね、迅堂くんが好きだったんだ。最初に助けてもらった時から、ずっと」
「へえ、……えっ!?」
迅堂くんは驚きで目を見開いた。
「最初ってまさか、小学生の時の話?」
「そう。遠足で迷子になった僕たちを探しにきてくれたでしょ」
「マジか……」
ついに彼は頭を抱えた。僕から恋愛感情を向けられていたとは思いも寄らなかったのだろう。しばらく沈黙が続き、重く気まずい空気が夜の公園に流れた。
「ごめん。気持ち悪いよね。迅堂くんが望むなら今後は可能な限り顔を合わさないようにするから」
「はぁ? なんでそうなるんだよ!」
僕の言葉に、迅堂くんはバッと顔を上げる。
「だって、イヤじゃない?」
「違う! 俺は自分の鈍さにあきれてんだよ!」
そう叫んでから、迅堂くんは再び頭を抱えて大きな溜め息を吐き出した。
「俺、今まで数え切れないくらい亜衣とのケンカを仲裁してもらってたじゃん? すげえ無神経だったよな。瑠衣の気持ちも知らずにさぁ」
「えっ、いや、そんな」
「俺だったら好きなヤツが誰かとうまくいくように応援するなんてできねえよ。絶対邪魔する自信ある」
迅堂くんは僕の気持ちに気付かなかったこと、そのせいで僕にツラい思いをさせたことを悔やんでいる。
「亜衣にもおんなじこと言われたよ」
想いを伝えると決めた時、亜衣に真っ先に話をした。もし今の関係が壊れたらごめん、と。その時に今の迅堂くんと全く同じ反応が返ってきたのだ。
本気で好きなら自分以外との仲を取り持つなんてできるわけがない。僕の気持ちは亜衣ほど強くなかった。最初から諦めて、なんの努力もしてこなかったんだから。
「これからも亜衣の兄として二人の仲を応援する。今日はそれだけ伝えたかったんだ。ごめんね、変なこと言って」
「瑠衣から好かれてイヤなわけないだろ。でも、俺にはもう亜衣がいるから」
「わかってるよ。お似合いだもん」
気持ち悪がられて当たり前だと思っていたから彼の言葉は予想外だった。驚きながらも真摯に話を聞き、受け止めてくれた。僕が好きだった人は本当に優しくて、強い。
「君を好きになって良かった、ありがとう」
涙は出なかった。死ぬまで言わないつもりだった気持ちを直接本人に伝えることができて、心のもやがすっきり晴れた気がする。
さよなら、僕の初恋。