文化祭開催は土曜。週明けの月曜は代休と決まっている。その月曜に洗濯したジャージを返すため、僕は土佐辺くんの家に来ていた。明日学校で渡しても良かったんだけど、二人だけで実行委員の打ち上げ兼反省会をやろうと誘われたのだ。
「お邪魔します。これ、手土産」
「気ィ使わなくていーのに。でもサンキュ」
母さんから持たされた焼き菓子の詰め合わせが入った紙袋と洗濯済みのジャージを渡す。
「おうちの人は?」
「平日だから仕事」
「そっか、うちもそうだった」
代休なのは将英学園だけで、亜衣は学校、両親は仕事に行っている。土佐辺くんの家もそうだ。ちなみに、お姉さんは就職して一人暮らしをしているらしい。
リビングのソファーに座り、反省点や要望などを挙げていく。これは学校側に提出する実行委員に課せられた宿題のようなものだ。来年以降の文化祭運営に役立てるという目的がある。
「テーブルクロス、出来が良いから残したいんだよね。来年も何かに使えると思うし」
「備品扱いで保管してもらうか」
「あと、どこでなにを仕入れたかリストを作っておきたい。近場の店に馴染みがなくて困ったもん」
「そうだな。あれば助かると思う」
他にも細々とした意見を挙げ、レポートを書き上げる。明日これを提出してしまえば実行委員の仕事は終わりだ。
「井手浦のこと、ちょっと調べてみた」
「メガネの先輩に聞いたの?」
「いや。別ルートから」
どこで誰とどう繋がってるんだ。
土佐辺くんの情報源は謎が多い。
「アイツ、中学時代は相当遊んでたらしい。成績は良いが素行が悪過ぎて将英学園には入れなかったんだと」
「それで工科高校に?」
「そう。あっちでは成績トップでかなり優遇されてて、多少やらかしても見逃してもらえてるって話だ」
制服は将英学園に対する未練なのだろうか。
「文化祭の時の動画は今後なにかあった時の切り札だ。あれだけ脅しておけば二度と安麻田には近付かねえと思うが、念のため保存しておく」
もし悪さをすれば今度こそ先輩は潰されるだろう。
「家庭環境が複雑だとか色々聞いた。でも、そんなの免罪符にはならねーからな」
僕は先輩のことを知らない。飄々とした笑顔の裏でなにを考えていたのか、なにを求めていたのか。出会いかたが違えば普通の先輩後輩として仲良く笑い合えていたかもしれないのに。
「オレ、安麻田に言わなきゃならないことがある」
「なに?」
隣に座る土佐辺くんが姿勢を正し、こちらに向き直る。首を傾げていると、彼は何度か口を開き掛けては噤むを繰り返した。
「前も言ったけど、オレは安麻田と仲良くなりたくて実行委員に誘ったんだ。来年も同じクラスになれるとは限らねーし、最後のチャンスだと思って」
「うん」
「井手浦がヤバいヤツだって分かる前から気に食わなかったのは、後から出てきたくせに安麻田に馴れ馴れしくしてたからだ」
確かに最初から敵意剥き出しだった。あれは嫉妬だったのか。嫉妬って、どういう意味で?