「こう言ったらアレだけど、おまえの気持ち、妹には気付かれてると思う」
「うそ!」
「いや、だって、安麻田分かりやすいし」
「そんなに!?」
「実際、井手浦(いでうら)にも一発でバレてたじゃねーか」

 確かに、普段から表情や態度に全部出ていたならバレていてもおかしくない。これでも必死に隠してたんだけど。

「迅堂は鈍いから気付いてない可能性あるけど」

 亜衣はともかく、迅堂くんには知らないままでいてほしい。彼から軽蔑されたり避けられたりしたら、僕はきっと立ち直れない。

「迅堂くんへの気持ちはもう捨てる。どのみち諦めるって決めてたんだ。なかなか踏ん切りがつかなかったけど、今回のことで身に染みた」

 僕の言葉に、土佐辺くんは小さく頷いた。八年ぶんの片想いだ。完全に無くすには時間が掛かると思う。でも、もうやめなきゃ。

「それはそうと、井手浦がまた何か仕出かさないように釘を刺しておかねーと」
「もう大丈夫じゃない?」
「甘い。もうウチの生徒に成りすますことはないと思うが、工科高校(あっち)でおまえの妹にまた手を出すかもしれないだろ」
「そ、それは困る!」

 先輩の関心が僕に移ったから亜衣は解放されたんだ。僕に手を出せなくなったら亜衣のほうに行くかもしれない。そうしたら、再び迅堂くんが嫉妬で焦って暴走してしまう。

「とはいえ他校の生徒で、出身中学もオレらと違うんだよな。さぁて、どうしてくれようか」

 弱みを握って脅すつもりなのか。先輩を止めるなら、それくらいしないと駄目なのかもしれない。土佐辺くんは片手でスマホをいじりながら連絡先一覧を眺めている。彼の情報源はこの学校の生徒だけに留まらないらしい。

「とりあえず亜衣に注意するよう伝えておく」
「絶対相手するなって言っとけよ。……双子でも性格ぜんぜん違うのに、おまえらの顔がよっぽど好みなんだろうな」

 顔で好かれても嬉しくなんかない。写真で脅されるまで、先輩は優しい人だと信じていた。距離感近くてすぐ触ってくるところは苦手だったけど、話しやすくて楽しかった。悲しさと悔しさで、また涙が目尻からこぼれ落ちる。

「い、いい人だって思ってたんだ。土佐辺くんから気を付けろって言われてたのに」
「そう思われるように振る舞ってたんだろ。安麻田が悪いわけじゃない」
「うん……」

 僕が泣き止むのを待ってから保健室に向かい、体調不良ということにして休ませてもらった。色々あったからか、僕は横になるとすぐ寝落ちてしまったらしい。土佐辺くんはベッド脇の丸椅子に座り、ずっと付き添ってくれていた。

「安麻田くん、大丈夫か!」
「ごめん、もう平気だから」

 放課後、駿河くんが僕たちのカバンを持ってきてくれた。よほど心配だったようで、僕の額に手を当てて熱がないか確認したり、飲み物を買ってきてくれたり。あんまり騒ぐものだから養護教諭の先生に怒られたりした。

 その日は三人で一緒に帰り、家の前まで送ってもらった。