部活のメンバーの反応はまちまちだった。「楽しそうじゃん、やってみようよ」「文化祭が出来れば十分じゃね?」「そこまでのテンションはちょっとないかな……」
 文化祭の曲をそのまま続けて練習すればいいんじゃないかという僕の提案が受け入れられ、その年の年末に、予選大会へ出場することになった。

 会場は地域の高校生バンドやコーラスグループが一同に会していて、すごい熱気だったのを覚えている。みんなが自分たちの音楽に誇りを持っていて、けれど実力のある他校の集団に気圧されて、そんな気持ちのせめぎあいの中で緊張と興奮が渦巻いていた。
「すげぇな」
「かっけぇ」
 江崎君たちも参加者たちの熱意に飲まれたようで、おちゃらけたようないつもの空気は消えていた。自分たちの気持ちをひとつにして、かっこいいと思う音楽を演奏したい、その気持ちが僕にも伝わってくるようで、音楽コンテストへの参戦を提案して良かったと思った。

 結果は案の定予選敗退。けれどみんなは、やって良かった、相枝ありがとうと何度も言ってくれて、裏方としての経験は僕にとってプラスになった。だれかより上手くなりたいという気持ちで練習したって、それは本当の前進じゃないと分かったからだ。
 音楽コンテストのテーマソング、エンシオの『スタート』は教えてくれた。だれかを出し抜くための一歩じゃない、だれを押し退けるわけでも、一人卑屈になるわけでもない、そんなフラットな感覚。響也の声がそう導いてくれた気がして、単なる夢だったものは、自分自身の力で叶えるものに変わった。

 布団の中で、そんなことを思い出しながら歌を聞いていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。大学の課題をせずに寝てしまったことを後悔しながら、慌てて出かける準備をする。
 よくあるボーイミーツガール映画のように朝食のパンを齧りながら、トントンとスニーカーにつま先を押し込み、ねじれたかかとを片足ずつステップを踏みながら直す。耳からはエンシオの四人のハーモニーが流れてきて、音楽を続けたいと思う心を後押ししてくれている。
「いってきます」と、家の扉を開けた。エンシオの音楽は、今日もそばにいる。

 高校生の時に入ろうかどうしようか迷っていた音楽スタジオに、週一で通っている。先生に教わるドラムレッスンは、自己流でやってきてしまった僕にとってなかなかハードではあるけれど、教わったことが身体の中に吸収されていくのを感じるのは楽しい。
 もっとたくさん練習したいとは思っているものの、アルバイトを決めていない今ではこれが限度だ。
 大学が終わってからの数時間と土日を中心に求人募集をチェックしているけれど、決して陽キャではない僕が飲食や接客を続けられるかどうかは疑問なところで、出来れば高校の頃音楽部で裏方をやっていた時のような、あんな感じの仕事があればいいなと思っている。

「ありがとうございました」
「今日やったところ、もう少し練習だね。自宅にドラムセットがなければ練習パッドでも出来るけど。あ、レンタルもあるよ」
「事情があって、家だと練習はちょっと……」
「そっかぁ。相枝君素質あるから、頑張ってほしいな。レッスンない日でもスタジオの個人利用プランあるから、考えてみて」
「はい」