「でもさ、吸血鬼なんて本当にいるわけないよね?……だってここは、人間が暮らす世界だよ?」

 萌恵の一言で、桜木は完全に黙りこんでしまった。
 そんな桜木を見て、私も何も言えなかった。

「じゃあ私、そろそろ行くね。二人はゆっくりしてて」

 萌恵はそのまま屋上から立ち去っていった。

「……桜木、大丈夫?」

 私は桜木に声をかける。

「ああ……」

「ねぇ、今の話が本当なら……他にも吸血鬼がいるってこと?」

「……その可能性は高いな」

 私は桜木の手を握りしめる。

「これから、どうするの……?」

「……その吸血鬼が現れた以上、俺がなんとかしないと、この世界がやばい」

「桜木……」

「早くなんとかしねぇと、関係のない人間にまで被害が及ぶかもしれない。 とにかく今は、一刻も早くそいつを見つけないと。……くそっ!」

 桜木はイライラしてるのか、フェンスを思い切り蹴っ飛ばした。

「……桜木、落ち着いて」

 私がそう声をかけると、桜木は私に「落ち着いてられるかよ! 人間が死ぬかもしんねぇんだぞ!?」と声を荒げた。

「……っ、ごめん」

 桜木は私に「……悪い。怒鳴ったりして悪かった」と言ってくれた。

「ううん……私の方こそ、ごめん」

「いや、お前は何も悪くない」

 そんな桜木に私は「こんな状況で、落ち着いてられる訳ないよね……」と伝えた。

「……悪い、一人してくれないか。 少し頭冷やしたい」

「うん……わかった。先生には、保健室で休んでるって言っておくね」

 私もそう言い残して、屋上から立ち去った。