「何かって?」
「いや、距離が離れてたから、なに言ってたかはわからなかったみたい」
「……そうか」
桜木の表情が段々と険しくなっていく。
「私が知ってるのはこのくらいかな。 知りたいなら、後は直接彼氏に聞いて。私はそんなに知らないから」
「ああ、サンキュー。悪いな」
「ううん。でもなんで、桜木くんは吸血鬼なんかに興味があるの?」
うわぁ……。それ聞いちゃう感じ?
いくら萌恵でも、自分がその"吸血鬼"だなんて言えないしね……。なんとか上手くごまかしてね、桜木。
「あ、ああ……俺の友達も吸血鬼見たって、昔言ってたことがあってさ。 それで気になって、個人的に調べてるんだ」
「ええっ、そうなの? やっぱり、吸血鬼って本当にいるのかな……?」
「……どうだろうな」
桜木自身も吸血鬼(ヴァンパイア)だ。 だから、人間が吸血鬼を怖がるのは普通のことだとわかっているのだろう。
「でもさ。……吸血鬼って人間にとっては、怖い生き物なんだよね」
「……え?」
「だって人間を殺すんでしょ?……私はそんなの、耐えられない」
その時私はすぐに気づいた。 桜木が複雑な表情をしていることに……。
確かに私たち人間からしたら、桜木は吸血鬼(ヴァンパイア)だから、怖いと思う。 でも桜木はそんな人間じゃない。
桜木は、そんなにヒドイ人間じゃない。 ちゃんと人間の心がわかる、れっきとした人間だ。
「吸血鬼なんて、ただのウワサだといいんだけど」
「……そうだね」
この街には……確実に吸血鬼がいる。



