「ちょっと……一人になりたくて」

 萌恵の表情が少し暗いように見える。

「ちょっと彼氏とケンカしちゃって、思わずここに来ちゃった」

「ケンカ? なんで?」

 私がそう聞くと、萌恵は「だって彼氏が、なんか変なこと言うだもん」と言っていた。

「変なこと?」

 そして私たちは、萌恵の口から衝撃的な言葉を聞くことになった。

「うん。なんが吸血鬼を見だって言うんだよね」

「っ……?!」

 その言葉に真っ先に反応したのは、桜木だった。

「吸血鬼……?」

 え、どういうこと……? 吸血鬼を見たって、一体どこで?

「うん。それで、私がそんなのいるわけないじゃん、バカじゃないの。って言ったら、彼氏が怒っちゃって」

 桜木は萌恵に「おい。そいつは吸血鬼を見た。……本当にそう言ったのか?」と確認している。

「え? うん、あれは絶対に吸血鬼だったって、言ってたけど……」

 桜木は萌恵に「なあ、その吸血鬼についてもし聞いていたら、俺に教えてくれないか?」と話した。

「それはいいけど……なんで?」

「……いや、まあ。俺も吸血鬼について調べてるんだ。ちょっと興味があってさ」

「ふーん。 桜木くんって、変わってるんだね」

 萌恵にそう言われた桜木は「まあな。 とりあえず何か知っていたら教えてくれ」と萌恵をその場に座らせる。

「ああ、うん。……確か、その吸血鬼の目が赤かったって言ってたよ。暗闇の中を、ひっそり歩いてたらしいの」

「……そうか」

 桜木の目つきが急に怖くなった。

「あと、小声で何か言ってたみたいだよ」