「……バカじゃないの」

 桜木なんてもう知らない。 あんなヤツ、大嫌い。
 だけどそれと同時に、なんだか放っておけないような気持ちにもなった。

「……なんなのよ、この気持ち」

 そんなことを考えていると、「どうしたの?真琴?」と萌恵が声を掛けてくる。

「あ……萌恵」

「なんかあったの? なんか暗い顔してるね」

「そう?そんなことないよ」

 と言葉を返したけれど、萌恵から「いや、なんかムスッとした顔してるよ?」と言われてしまった。

「別に、なんでもない」

「そう?」

「うん」

 私も先生にノートを提出して帰ろうと思っていると、萌恵が「……ねぇ真琴、桜木くんどうしたのかな?」と言ってくる。

「え?」

「なんか最近、様子変じゃない?桜木くん」

「……そうかな。いつも通りだと思うけど」

 もう桜木なんて知らない。 勝手にすればいい。

「ええっ、絶対変だよ! 今日だってもう帰っちゃったし」

「……具合でも悪いんじゃない」

 そう答えてみたけど、萌恵は「えー、そんなふうには見えなかったけどなあ」と言っていた。

「あんなヤツ、放っとけばいいじゃない。相手にすることないよ」

 桜木のことはもちろん気になるけど、本人が話したくないんだから、気にしても仕方ない。
 話したいと思う時そのまで、待った方がいいのかな。 もしあのキスが原因だとしたら、その原因は私にある訳だし……。
 もう一回、謝った方がいいかな。

「ええっ!? 急にどうしたの、真琴?」