【sideユズル③】



「桜木……ごめん」

 あの時のアイツの顔が忘れられない。 ちょっと言い過ぎたか……。
 俺もそれほど焦ってるってことかもな。 俺の命がいつなくなるか、わからないから。

「……桜木、ほんとに大丈夫?」

「ああ。心配いらねぇよ」

「……わかった。じゃあ、また明日ね」

「ああ」

 気まずい中、真琴と別れて家へと帰ろうと歩き出した。
 
 ーーーその時。

「……っ!?」

 なんだ……? 血のニオイが俺の鼻をかすめた。
そしてとっさに感じる気配。
 きっとこれを"殺気"と言うのだろう。……なんかイヤな予感がするな。

 恐る恐るニオイの方向へと振り返る。

「あら、気付かれちゃった?……なるほど、鈍いってわけではなさそうね」

「……お前は誰だ?」

 確かにこのニオイは、俺がずっと感じていたニオイだ。
 イヤなものを引き付けそうな、そんなニオイ。

「あら、アンタと同じヴァンパイアよ。ランクはアンタより下だけどね」

「……お前がずっと俺を狙ってるの、知ってるぞ」

「あら、もう気付いてたのね? 案外、早いのね」

 誰だ、この女は……。何者なんだ?

「やはり見た目は、俺と同じ人間だな。 しかも完璧になりきってるな、人間に」

「そうでしょ? この姿になるのに、結構苦労したんだから」
 
 見た目は完全に人間だ。気配を消されたら、全然わからないレベルだ。
 そのくらい、見分けがつかない。