と、真琴は言うけど、俺にとっては人間の世界の方が何倍も生活しにくいけど。

「慣れればそうでもないけどな」

「とにかく、その血のニオイを持ったヴァンパイアがここにいるわけでしょ? アンタ、いつ狙われるかわからないじゃない」

「……まあ、狙われたらその時はその時だな」

 真琴は軽くため息を吐くと「……アンタって、本当に人間みたいね。いきあたりばったりなところがさ」と俺に言った。

「ヴァンパイアにも適当なヤツはいる」

 真琴に「まるでアンタみたいね」と言われたので「否定はしない」と答えた。

「……ていうか、もうすぐ授業始まるし、教室戻るわよ」

「ああ、そうだな」

 とにかく今はなにもされないだけマシだな。 いつ俺は狙われるかわからないから。

 その時だったーーー。

「……っ!」

「桜木? どうかした?」

 俺の鼻にかすかに血のニオイを感じた。

「ねえ、桜木……?」

「……血のニオイがする」

 真琴は「えっ……それ本当?」と俺を見ている

「どこから?」

「わからない。……だがあの時と同じニオイだ。強力な血のニオイ」

周りを見渡してみたが、怪しい人物なんて誰もいない。 だから余計にわからなくなる。
 一体なんなんだ、このニオイは……。

「……特に怪しい人物なんて、いないけど」

 真琴はそう言うが、そうとは限らない。

「いいや、そうとは限らない」

「え……? どういうこと?」

「ヴァンパイアは簡単に人間の姿になれる。 だから俺と同じく、見た目は人間にしか見えない」