「餌食って……つまり、食べられるってこと?」
「まあ、簡単に言えば殺されるってことだ」
真琴はもう一度椅子に座ると「……それって、人間を噛み殺すってこと?」と俺に問いかける。
「ああ、簡単に言うとそうなるな」
真琴は「めっちゃ怖いんだけど……」と呟く。
「ヴァンパイアは気が短い。 だから人間のような感情はまるでない。……だからヴァンパイアは、余計人間を嫌うんだ」
真琴はそんな俺に「……じゃあ、そういうアンタはどうなのよ」と聞いてくる。
「俺? 俺はその辺のヴァンパイアとは違う。ここに来るために、わざわざ人間みてぇな格好して、血のニオイも抑えている。……それに気が短いほうでもない。 まあヴァンパイアにしては、大人しい方かもな」
「そうなの……? ヴァンパイアなんてみんな同じかと思ってるんだけど」
おいおい、それはどういう偏見だ……?
「同じな訳がないだろ。俺は向こうの世界じゃ格上の存在だ。 誰も俺に手出しはできない。もし逆らったりしたら、それこそこの世の終わりだってみんな言ってる」
「それは大げさすぎない?」
「向こうの世界じゃそれが当たり前なんだ。……俺たちがヴァンパイアとして生きるには、上下の世界がつきものなんだよ」
人間にも上下関係があるように、ヴァンパイアの世界にも上下関係は確かに存在する。
「へぇ……。確かにまあ、人間にも上下の世界はあるけどさ」
「だろ? だからそれと同じだ。ただ一つ違うのは、ヴァンパイアは気が短いからすぐに殺しちまうところだ」
「……アンタの世界って、生活しにくいのね」



