真琴は俺に「いやいや、ヴァンパイアに貴公子もなにもないでしょ」と突っ込んでくる。

「お前なあ……バカにしてんのか?」

「バカにするもなにもないわよ。……大体、ヴァンパイアって悪魔でしょ? 人を噛み殺して人間をえさにするんでしょ?」

 真琴はヴァンパイアが悪いものだと信じているようだ。

「……ああ、まあ確かにそうだな」

「やっぱりね。 だからヴァンパイアに"貴公子"なんて言葉は似合わないわよ。ヴァンパイアは人間にとって恐い生き物なんだから」

 恐い生き物、か……。

「まあ、そうだな。 お前の言うことは間違ってない」

「でしょ? でもアンタみたいなのがヴァンパイアだなんて……誰も見抜けないでしょうね」

 真琴の言葉に俺は「ああ、まあな」と答える。

「……それで、今後はどうするつもりなの?」

 真琴は真剣な顔を見せる。

「さあな。 とりあえず普通に生活するしかねぇだろうな」

「そう。 ていうかその強い血のニオイって……一体どんなニオイなの? それって私たち人間にわかるもの?」

「は?わかるわけねぇだろ。 それはヴァンパイアにしかわからねぇニオイなんだから」

 真琴はなにを言っているんだ。

「やっぱり。……でも、どんな感じで強いの?」

「んー……人間がそのニオイを嗅いだら、間違いなく死ぬだろうな」

 俺がそう話すと、真琴は立ち上がって「はっ!? 死ぬっ……?!」と驚いている。

「ヴァンパイアは人間のニオイがわかる。 だからむやみに近付けば、人間は一発で俺たちヴァンパイアの"餌食"になる」